小狼とさくらは林の中の一本道を歩いていた。
舗装されていない道は少々歩きづらいが、じゃりっという土と小石のこすれる音が自然を感じさせた。
満月の月明かりはふんわりと届く。林の中を歩くにはそろそろ明かりが必要だった。
「まったく、懐中電灯の存在をわすれていたよ・・・」
小狼が「火神」と唱えて札に火をともした。
ほわっと目の前が明るくなる。
「そっか。魔法で明かりを付ければいいんだよね」
「まぁな。さくら、『灯』のカードを出してくれ。火だと風であおられて危ないから」
「あ、うん」
この木々の中、火は危ないと判断して小狼が言った。
火の粉が飛んで、火事にでもなったら取り返しが付かない。
ごそごそとさくらが首からさげている鍵を取り出した。ちゃんと手提げにはカードが入っている。
「封印解除!
我に灯りを授けよ!『灯』!」
ふんわりとした灯りがふたりの周りを包み込んだ。
いつ見ても幻想的で綺麗な光だ。
「これでいい?」
「ああ、ありがとう。しかし、
『灯』
と蛍は似てるからな・・・何だか着く前に蛍を見てる気分だ」
「ふふっ。そうだね。でも、これなら蛍さんに逃げられなくてすむねっ」
「・・・それもそうか」
そんなことを言いつつ歩みを進めた。
サラサラと水の流れる音がして、何故か少し気温が下がった気がした頃、ふたりは川岸にたどり着いた。
あちらこちらでふんわりと光が飛び交っている。
「うわぁ・・・!綺麗っ・・・」
「・・・すごいな・・・」
しばらく、ふたりはただただその光景に見入っていた。
自然のニオイ、川の流れるせせらぎ、やわらかな月明かり、飛び交う光。
ここは幻想の世界なのではないかと疑いたくなるほどだった。
「あ、さくら」
「ん?」
「ちょっとじっとして」
すっと小狼がさくらに手を伸ばした。
そっと髪をすくう。
そして、ぱっと手をさくらの前で広げるとふわりと蛍が飛び立った。
「ついてた」
「ありがとう。でも、素敵な髪飾りだったかもね?」
「それなりに」
くすくすと笑いあう。
「本当に素敵。友枝じゃ見られないね」
「そうだな・・・。蛍は水の綺麗なところにしかいないから・・・」
「うん・・・。小狼君と見れてよかった」
「?」
「わたし、『灯』のカード捕まえたとき、
すっごく綺麗ですっごく幸せな気持ちだったの。蛍かなぁって最初思ったんだけど・・・」
「・・・・・・」
「あのときは雪兎さんと一緒だったんだよね」
「・・・そうか」
「今日は小狼君と一緒っ。すっごく綺麗で、すっごく幸せ!」
そう言って、さくらがきゅっと小狼の腕にからみついた。
「なっ・・・!」
「・・・ごめんね、雪兎さんの話しちゃって・・・」
「別に・・・おれは・・・」
「今は小狼君が一番だもんっ」
「・・・ったく、さくらには負けるよ」
「えへへっ。・・・そろそろ知世ちゃん達くるかな?」
「そうだな・・・そろそろ来るんじゃないか?」
「残念。ふたりっきりだったのにね」
「・・・もしかして・・・」
「?」
大道寺が仕組んだんじゃないだろうか・・・?
一瞬、小狼の頭にそんな考えがよぎった。
まさかな。そう思い頭を軽く振る。
「いや、何でもない。何?さくらはふたりきりが嬉しかったわけ?」
「え、あ・・・うん・・・」
急に照れてさくらが腕を放した。
その手をぱしっと小狼がつかむ。
「じゃあ、サービス」
「えっ」
ちゅっと軽く小狼が額にキスをした。
「〜〜〜〜〜〜」
「お、大道寺達、来たみたいだ。さくら、『灯』をしまわなくちゃ」
「もうっ、小狼君ったらふいうちすぎるよぅ!」
「ほら、早く」
「もーーーぅ・・・」
しゅんっとさくらが魔法を解いた。杖も鍵へと戻る。
知世の持っている懐中電灯の明かりが次第にせまってきた。
「じゃあ、仕返しっ」
そう言って、さくらは軽く小狼の頬にキスをした。
カタンと下駄の軽い音がした。
「これでおあいこだねっ」
「・・・変なとこではりあう・・・」
「いーのっ。なんか悔しかったんだもんっ」
満足げに笑顔を浮かべてさくらが言った。
まもなくして、知世と真嬉が合流した。
幻想的な世界は誰と見ても美しい。親しい人と見れば、それはさらに思い出に残る。
美しい景色はひとりで楽しみより、誰かと分け合った方が嬉しくなるものである。
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