翌日、サクラとモコナも一緒に神殿の本殿を目指した。
琥珀たちに星祭りまでには戻ると言い残して。

「ここか・・・」
「おっきいねー」
「こんなデカイ扉開くのか?」
「それは黒様の出番とゆーことでー」
「けっ」

本殿までたどりついた4人は入り口の大きな扉の前で、その大きさに驚いていた。
ファイに指名された黒鋼は軽く袖をまくると、力を入れて扉を押した。
すると、ずずずっと扉が開いた。
見た目よりもずっと軽いらしく、それほど苦もなく開けることが出来た。

「わあっ・・・」
「すごい・・・」

天井の高い廊下、壁に掛かる光り輝く明かり 、床や天井の装飾も柱の装飾も凝っていて、 異空間のような雰囲気をかもしだしていた。
四人分の足音がカツーンカツーンと高く長く響き渡る。
その音さえも神秘的に聞こえてくる。

「誰もいねーのかよ」
「モコナ、羽根の気配は?」
「するよ。近くにあると思う」
「どこにあるんだろうねぇ。ここ、広いみたいだから迷わなきゃいいけど〜」
「そうですね・・・」
「だいじょーぶっ。モコナにおまかせっ。羽根の気配をたどってくよ」
「ありがとう、モコちゃん」

ぴょこんとサクラの肩から小狼の肩へとモコナが移動した。
先頭を歩く小狼に方向を教えるために。

「小狼、次、左ね」
「わかった」

モコナの指示通りに次々に進んでいく。
進むのはいいけれど、もしかしたら帰れないかも、と思わずにはいられない。
それほどに広く、また綺麗で変わりばえのない廊下だった。
所々にある扉も全て同じものであるがゆえ、区別が付かない。


「ココ。ここから一番羽根の気配を感じるよ」
「・・・ここに、姫の羽根が・・・」
「ふっつーのドアだね」
「さっさと行け。ここで立ち止まる必要はねーだろ」
「はい」
「気をつけてね」
「大丈夫です」

慎重にドアノブに手をかけ、ゆっくりと手前に引いた。
ドアの先に広がったのは、大きな大きな空間。
高い高い天井、ステンドグラスが左右に輝き、天井にはガラスの窓。
随分距離があるだろう部屋の端には、祭壇らしきものが置かれている。

「小狼!あれ!」

モコナが叫んで、小狼がたっと駆けだした。
残りの3人もパタパタと追いかける。

「あれは・・・!姫の羽根!」
「本当だっ、サクラちゃんの羽根がこんなところに・・・!」
「なんだ、簡単に見つかったじゃねぇか」
「でも、これと星は関係あるんでしょうか・・・」

祭壇の前で立ち止まる。
天井でふわふわと浮いている羽根。
特に何かに影響を与えているとは思えない。
小狼が手を伸ばそうとしたその時、

「お待ちなさい」

ひとつの声が響いた。
全員がハッと声の主を捜す。
コツコツと軽い足取りで、右の通路へと繋がる入り口から、 背の高いスラリとした女性が現れた。

「お待ちなさい、少年」
「あなたは・・・」
「私はこの星の神殿の神官、翡翠(ひすい)と申します」
「神官様・・・!」
「その羽根は強い影響力を持っています。触れるのは危険でしょう」

神官である翡翠と名乗る女性が小狼の横に立った。
長い髪と優しい瞳、かすかに浮かべた微笑みが優しい天使だった。
それでいて、逆らってはいけない雰囲気がある。

「影響力というのは・・・?」
「・・・もう4ヶ月も前のことです。私が祈りを捧げているとき、 この羽根が突如舞い降りてきて、強い光を放ちました。 そして、その夜から、星の光が徐々に失われてしまったのです」
「・・・・・・」
「星の光を奪うほどの力。 そのような災いをもたらす羽根に・・・触れることは危険です」
「・・・お言葉ですが神官様、その災い、 なくしたいのでありましたら羽根をおれに下さい」
「何故?」
「その羽根は、サクラ姫のものです。それを探しておれは旅をしています」
「サクラ姫・・・というのはあなたですね」
「あ、はい・・・」

ついっと翡翠がサクラに視線を移した。

「・・・・・・いいでしょう。しかし、何か起こっても知りませんよ」
「大丈夫です」
「では、祈りを捧げてからにしてもらえますか」
「え?」
「ここは祈りの間です」
「町の神殿にもありましたね」
「町には三人の歌巫女がいます。会ったのですね」
「はい。歌を教えていただきました」
「そう・・・では、サクラ姫、一曲歌ってもらっても?」
「え、あ、わたしが、ですか?」
「これはあなたの羽根とのこと。 あなたの歌声に星の光を返してくれるといいのですが・・・」
「・・・わかりました。星の光が戻ってくるように、歌いますね」

サクラが翡翠の隣に立つ。
翡翠は跪くと、手を組み祈りを捧げている。
サクラは小狼と視線で会話すると、昨日琥珀達に教わった歌を歌い始めた。

「小狼君、あれ、見て!」
「えっ」
「光が・・・」

ファイに言われて小狼が羽根へと視線を向けると、羽根が眩しいほどに輝いていた。

「もしかして、羽根が光を集めてたのかなぁ」
「・・・わかりません。でも、星への祈りをするこの間・・・ もしかしたら、星への願いの数だけ、 羽根が星の光を呼び寄せていたのかも知れませんね・・・」
「んな非現実的な事があるかよ」
「黒ぽんは自分の背中にある翼を見てみたほうがいいんじゃない〜?」
「・・・・・・けっ」
「どんなことが非現実的なのかは、その国によって違うでしょ。 だから、この国、この世界ではアリなんじゃないかなぁ」
「そうですね」


サクラの歌が終わると、羽根はもとのようにふわふわと浮いていた。

「いい歌声をありがとう。さあ、少年、約束でしたね。好きになさい」
「はい」

羽根の下まで行くと、小狼はタンッと地面を蹴って、羽根をつかみ取った。

「姫」
「はい」

サクラの側でつかんでいた手を離すと、ふわっとサクラの中へと戻る。
羽根が戻るのと同時にサクラは眠ってしまった。
倒れ込むサクラを小狼がぐっと支える。

「まぁ・・・」
「ありがとうございました、神官様。これで、 きっと、今夜の星祭りは大丈夫だと思います」
「・・・そうであることを願いましょう。 この綺麗な夕焼けならば、夜空も素晴らしいでしょう・・・」

翡翠が天井を見上げて言った。
綺麗なオレンジ色の光が降り注いでいる。
ステンドグラスからは濃い色が差し込んでいた。

「ほら、もう用はないんだ。戻るぞ」

ひょいっとサクラのことを抱き上げて黒鋼が言った。
翼があるぶん、抱きかかえるのは大変だったが、 黒鋼の大きさからすれば大したこともない。

「はい」
「えーっとぉ、出口は・・・」
「モコナ出口は覚えてない」
「くすくす。私が案内しましょう」
「すみませーん」

翡翠の案内によって無事に出口へと出られた一行は、翡翠に礼を言い、町へ向かって飛び立った。