「ん・・・」
「あ、お目覚めですか」
「スウさん・・・」

町の神殿の一室。サクラが与えられた部屋のベッドで目を覚ました。
周りに小狼達はおらず、スウがいるだけだった。

「お着替えをお持ちしました。どうぞ着替えてください」
「え?あの・・・服なら・・・」
「これは星祭りの衣装です」
「星祭りっ。もう夜ですか!?」
「ええ。サクラさんたちのおかげです」
「じゃあ・・・」
「ありがとうございました。見て下さい」

キイっとスウがベランダに通じる窓を開けた。
サクラも起きあがってスウに続く。

「星の光が戻ってきました。サクラさんたちのおかげです」
「よかった・・・!」
「翡翠様から連絡を頂いています。さあ、着替えを。みなさんお待ちですよ」
「はいっ」

笑顔で返事をすると、サクラはスウが持ってきてくれた服に着替えた。
そして、スウの案内で星祭りの様子がよく見えるというテラスへと案内された。
そこには小狼・ファイ・黒鋼・モコナもいた。


「あっ、サクラちゃーん!」
「姫・・・目が覚めたんですね」
「はい。心配かけてすみません」
「うっわぁ、綺麗な服だねぇ」
「星祭りの衣装なんだそうです」

くるっと一回りして、サクラが服を見せた。
スカートがふわりと翻る。

「花をモチーフにした衣装です」
「小鳥さん!」
「星祭りではたくさんの花を飾るので、ドレスも花をモチーフにしています」
「それでグラデーションのかかった花びらみたいなドレスなんですね」
「はい。よくお似合いですね、サクラさん」
「ありがとうございます」

ふわっと風が吹いてきて、サクラのスカートをなびかせた。
星祭りの衣装は形は同じで色がたくさんあるらしい。
小鳥はオレンジ色の衣装を着ていた。
グラデーションのように色を変えながら、 花びらのように段違いに組まれたスカートが特徴的だった。

「あ、小鳥っ、そろそろ時間になるよ」
「今行くわ、琥珀、スウ」

琥珀は水色、スウは薄い緑のドレスを身にまとっている。

「サクラさん、一緒に一曲、いかがですか?」
「え?」
「祈りの歌を歌うことから星祭りは始まるんです。 翡翠様がサクラさんの歌、褒めてましたし」
「でも、そんな神聖なものに参加させてもらうわけには・・・」
「大丈夫よ。翡翠様が言うんだから。ね、小鳥」
「ええ。スウもそう思うでしょう?」
「・・・ええ」
「行ってきなよ、サクラちゃん」
「ファイさん・・・」
「おれも聴きたいです」
「小狼君・・・」
「モコナも!黒鋼も聞きたいよねーっ」
「・・・・・・いーんじゃねーか、一曲くれー」
「決まりっ。さ、行きましょう!」
「あ・・・じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃ〜い」
パタパタとファイが手を振ってサクラを送り出した。
毎年3人のところ、今年は4人の天使によって歌われる祈りの歌から、 星祭りは始まった。
満天の星の中、響き渡る音楽、楽しそうな笑顔、 溢れんばかりの花々、町中が久しぶりの星の光を嬉しそうに眺め、 踊りを踊っていた。
黒鋼とファイは星の光が戻ったお礼に、 と町の人たちから酒を山ほどもらい、上機嫌だった。






「本当にすごい星空ね」
「姫」
「はい、小狼君」

サクラがテラスにいた小狼の隣に立ち、グラスを差し出した。
キラキラと輝くグラスに、薄いピンク色の液体が注がれていて、 中に星形をしたフルーツが浮いていた。

「ジュースだから。お酒じゃないよ」
「ありがとうございます」

小狼がサクラからグラスを受け取る。
ほのかにバラの香りがするジュースだった。

「昔ね」
「?」
「小さい頃、こうしてたくさんの星を見たことがあるの。砂漠の夜で」
「・・・・・・」
「とっても綺麗で、とっても素敵で、 わたしすごく嬉しくて・・・。誰か・・・一緒にいたと思うんだけど、 それは思い出せなくて・・・残念だな・・・」
「・・・そう、ですか・・・」
「考古学者の先生が連れて行って下さったの。 ちょっと寒かったけど、本当に素敵で」
「・・・・・・」
「でも、ここの方が綺麗」
「え」
「星の都っていう名前が付くのわかるわ。 こんなに綺麗なんだもの。まるで星が降ってくるみたい!」
「そうですね・・・」
「こうして、小狼君と見れてよかった」
「え?」
「ううん、何でもない!」

ぱっとサクラが空を仰いだ。

「・・・おれも・・・姫と見られてよかったです」
「!」
「・・・」

今度は小狼が空を仰いだ。

「シャオラーン、サクラー、ふたりとも降りておいでよー!」

テラスの下からモコナが嬉々とした声で叫んだ。
その声にくすりと笑って、

「はーい!」

そう返事をして神殿の出口へと向かった。



**fin** 2007.09.10.