「それにしても、まさか自分が天使になる日が来るとは思ってなかったなぁ〜」
「天使がいること自体、驚きました」
「けっ。こんなメルヘンチックな羽根、欲しくなんかねーっつの」
「まぁまぁ黒りん、翼が白じゃないだけマシでしょー?」
「あぁ?」
「だって、黒りんに白い羽根は似合わないもんねーっ」
「てめー・・・」
「でも、服、貸してもらえてよかったよね」
「はい。いい人達に出会えてよかったです」
「確かに、野宿とかは避けられたな」

通された3人部屋で3人は用意された服に着替えて一息ついていた。
窓の外から見える景色は、今まで通ってきた国とそんなに変わりない。
違うのは住んでいる人に翼があることだけだ。






「こちらです」
「ありがとうございます」

サクラが3人に部屋を案内された。
小さいけれど綺麗に整った可愛らしい部屋だ。

「着替え、持ってきました。お手伝いしますね」
「え、あ、でも」
「慣れないうちは着替えるのが大変ですから」
「女性の場合だけですので、ご安心下さい」
「あ、はい・・・」

言われるがままに、サクラは小鳥とスウに手伝ってもらって服を着替えた。

「あの、聞いてもいいでしょうか」
「何ですか?」
「小鳥さん達はここにお仕えしているっておっしゃってましたけど・・・ 何をされているんですか?」
「私たち3人は歌を歌っています」
「歌?」
「はい。星の輝きの歌です」
「星の輝き・・・」
「この町シレーネは星の都と呼ばれています。 それは、降るように輝く星が見えることから付いた名称なんです」
「素敵ですね!」
「ありがとうございます。でも・・・」
「?」

カチャッ・・・。
小鳥が扉を開けて、どうぞとサクラに道を譲った。
着替えが終わったので別の場所に移動するらしい。サクラもそれに従った。

「最近、星が見えないのです」
「え、星が見えない?星の都なのに、ですか?」
「ええ・・・。その理由を探しているのですが・・・なかなか・・・」

長い長い廊下を歩いて、突き当たりの部屋に通された。
そこには小狼たち3人と琥珀と一緒だったモコナもいた。

「わあ、サクラちゃん、すっごく可愛いよー!」
「・・・・・・!」
「まあまあだな」
「サクラ、素敵っ」
「ありがとうございます」

サクラの姿を見るなり、みながそう言った。
小狼は顔を赤らめるばかりで言葉になっていない。
へへっと笑ってサクラも頬を染めた。

「サクラちゃんがいない間に琥珀さんたちに色々聞いてたんだよー」
「そうだったんですか」
「それでねー、ちょっと町まで行ってこようと思うんだ」
「姫は待っていて下さい」
「え?」
「そろそろ夕暮れですから。それにすぐ戻ってきます」
「でも・・・!」
「サクラちゃんは琥珀さん達にもっと色々聞いておいてよ。 女の子同士の方が話しやすいだろうし〜」
「神殿に仕えるやつらなら、まぁ、それなりに知ってるだろ」
「・・・わかりました。でも、気をつけて下さいねっ」
「はい」
「まっかせといて〜。黒ろんがいるから、心配ないって」
「俺は用心棒かよ!」

そうして、小狼・ファイ・黒鋼は町へ、サクラとモコナは神殿に残った。







「あ・・・」
「どうしたの?サクラ」
「歌が聞こえる・・・」
「・・・ホントだ!」

神殿内を歩いていたサクラが、ふと足を止めて耳を澄ませて言った。
かすかに、どこからか歌が聞こえてくる。

「行ってみよう」
「うん」

聞こえてくる歌をたよりにサクラが足の方向を変えた。
徐々に聞こえてくる歌が大きくなり、ひとつの大きな間にたどり着いた。
降り注ぐオレンジ色の光の中、琥珀・小鳥・スウの三人が歌を歌っている。
それは神秘的で、透き通るような歌声。
それはまさしく、天使の歌声。

「サクラさん」
「あ、すみませんっ、お邪魔しちゃいましたか?」
「いいえ。どうぞこちらまでいらして下さい」

ちらっとモコナと視線を合わせてから、サクラが三人のもとに歩みを寄せた。
コツコツと軽い音が天井の高い室内に響き渡る。

「あの、何をしてたんですか?」
「祈りの歌を歌っていたんです。明日が星祭りですので」
「星祭り?」
「一年で一度、星が一番綺麗に見える日の事です。けれど・・・」
「ここ最近、星が見えないので、こうして祈りの歌を捧げていたんです」
「明日にも歌いますし・・・練習もかねて、ですが」
「・・・どうして星が見えないんでしょう。ここは、星の都というくらいなのに・・・」
「本当に私たちにも不思議で仕方がないのです」
「あの、何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったこと?」
「今までと違うこととか・・・突如変わったこととか・・・」
「うーん・・・」

三人が顔を見合わせた。
もしかしたら羽根の影響かも知れないと思ったサクラは、そう聞いたのだった。

「変わったことなどは特にありませんが・・・」
「もしかしたら、本殿で何かあったのかも知れません」
「本殿?」
「この神殿の本殿です。ここは町の中に建てられた小さなところですから」
「本殿には神官様もいらっしゃいます。わたしたちのような巫女ではなく・・・」
「神殿・・・。本殿はどこに?」
「町を抜けて、森を二つ抜けた丘にあります。今からでは間に合いませんよ」
「そうですか・・・」
「ところで、サクラさんは歌はお好きですか?」
「え、ええ・・・」
「よろしければ一緒にどうでしょう?」
「え、あ、でも、わたしここの歌もよく知らないですし・・・」
「大丈夫、お教えします。ね」
「あ、はい」

小鳥の笑顔につられてサクラも思わず笑顔で応えてしまった。




一方の小狼達は町を歩いて、店をやっている人たちなどに話を聞いて回っていた。

「なんだい?そーゆーことなら、そこの角を曲がったところの本屋に行ってみな」
「本屋さん?」
「そこの本屋は伝説とか神話とかの専門店だからね。 店主に聞きゃ、なんかわかるかもしれんよ」
「ありがとうございます」

骨董品を扱っているという店を出て、 小狼達は言われたとおりに角を曲がり、一軒の本屋の前に立った。

「神話とか伝説の本屋さんなんて、小狼君ドキドキしちゃうでしょ〜?」
「あ、でも、文字が読めないかもしれないので・・・」
「さっさと入ろうぜ。店主に聞きゃーいいんだろ」
「はい」

ガラッと店の扉を開けて中に入る。
天上近くまで並べられた本の数々が出迎える。
まるで図書館のようだった。

「あら、お客さん?珍しい」
「あの、ここの店のご主人は・・・」
「おじーちゃんに会いに来たの?」
「そーなんですー。聞きたいことがあって〜」
「ふうん。おじーちゃんっ。おじーちゃん。お客さんだよーっ」

若い女の子が店の二階に通じる階段に向かって叫んだ。

「ちょっと待ってて。すぐ来ると思うから」
「はい」

ほんの数分もしないうちに、トントンと階段を下りてくる音が聞こえ、 老人が姿を現した。

「お呼びかな」
「あ、はい。あの、聞きたいことがあるんです」
「何でしょう」

ぽすんっと豪華な大きいイスに腰掛けて老人が言った。

「ここ最近、星が見えないと伺って・・・」
「そうだね・・・ここ最近星が見えないね・・・。 ここは星の都で、明日は星祭りだというのに・・・」
「何か、原因になるような、おかしな出来事がありませんでしたか?」
「と、言うと?」
「その・・・探し物があるんです。もしかしたら、 それが・・・あるかもしれないんです」
「ふむ・・・。特におかしな出来事はないね。 星が見えない、それが一番おかしな出来事さ」
「そうですか・・・」
「残念だったねー」
「星を奉る神殿」
「え?」
「星を奉る神殿がある。そこに行けば、何かわかるかも知れないぞ」
「神殿というと、町にある・・・」
「いいや、そこじゃない。森を抜けたずっと先にあると言われる神殿だよ。 あそこに行こうなんてヤツはいないから、よく知らないけどねぇ」
「ありがとうございます!」
「特に何もなくても、ワシのせいじゃないからな」
「もちろんです。情報だけでも聞かせていただけてよかった」
「はっはっは。おまえさんたちが行くことで星が戻ってくればいいんだがね」
「明日、行ってみようと思います」
「気をつけてお行き」

それだけ話を聞くと、いそいそと店を出た。

「星祭りってゆーのはみんな言ってたけど、神殿が別にあるとは〜」
「なんでそんな誰も行かねーようなとこに作るのか、わからねぇ」
「星を奉っている神殿・・・姫の羽根があればいいんですが・・・」
「明日行って、確かめてみようよ。今度はサクラちゃんたちも一緒にさ」
「はい」
「さー、日が暮れちゃったから、ぱぱっと帰ろう」
「そうですね」

バサッと舞って、小狼達は町の神殿へと舞い戻った。