「おはようございます、さくらちゃん」
「あ、おはよう、知世ちゃん」
「何だか今日はご機嫌なんですね」

朝、学校に登校してきた知世が教室にいたさくらにそう告げた。

「そうかな?」
「ええ。何かあったんですか?」
「特にはないけど・・・あ、今日は久しぶりに小狼様と登校だったんだ。それだけだよっ」
「まぁ・・・」
「なんてことないでしょう?」
「ふふっ。さくらちゃんは小狼さんの事が本当にお好きなんですね」

くすくすと笑みをもらしながら知世が言った。
当のさくらは、きょとんとしてその言葉を聞いていた。

「え?す、好き?」
「ええ」
「そ、そりゃ、小狼様はわたしのご主人様だし・・・嫌いなわけないよっ」
「いいえ、そうゆう意味の“好き”ではありませんわ」
「そ、そんなことないよう!」
「くすくす。そこがさくらちゃんの可愛いところですけれど」
「知世ちゃ〜ん・・・」
「さくらちゃんのことですもの。本当のところは、さくらちゃんにしかわかりませんけれど」
「・・・・・・」

にっこりと言う知世をさくらが上目遣いで見上げた。
違う違うと否定しながらも、 さくらは気がつけば小狼を目で追っている事に気がついてしまった。
真剣な瞳をしている小狼を見ているのが好きだと、気づいてしまった。
いけないと、違うと、思えば思うほど、小狼のことが気になって、その度に小狼の違う面を見つける。
そうしてまた、小狼を知るたびに、違うと言い聞かせている。
しかし、もうそれも限界のようで、否定できなくなってきた自分がいるのだった。

「・・・・・・知世ちゃん」
「はい」
「・・・メイドがご主人様に恋をする、なんて・・・ありきたり?」
「そんなことは決してないと思いますわ」
「・・・ダメなことかな?」
「ご本人同士の問題ですもの。良いも悪いもありませんわ。 私は、さくらちゃんが小狼さんを好きになられても、問題はないと思いますわ」
「・・・・・・ありがと・・・」
「はい」

赤く頬を染めてさくらは校庭に視線を向けた。その様子を知世は穏やかに見守ってた。
知世はいつもさくらを見ている、一番の理解者でもある。
さくらが小狼のことを好いている事くらい、さくら自身が気がつかない頃から気がついていた。
観察力だけは人の何十倍も優れているからこそ、だ。

――小狼様が好きだなんて・・・そんなことダメなのに・・・。 わたしったらダメだなぁ・・・。きっと一生叶わない恋だけど、いいの。 小狼様の側にいられれば、わたしはそれでいい・・・。 『好き』なんて言葉、伝えなくても・・・知っていただく必要もないのだから・・・。