ピンポーン。
再びインターホンがなる。
訪問主は言うまでもなく知世で、ケルベロスが迎えに行った。
そして、リビングで小狼にした話を知世にも長々と話したのである。
「そうだったんですか・・・」
ぎゅっとさくらの手を握る小狼に向き合うカタチで知世が床に腰をおろした。
「では、李君はこのままさくらちゃんが
お目覚めになるまでいらっしゃるんですか?」
「え?」
「あ・・・」
「お兄様やお父様は・・・」
「兄ちゃんは今日はゆきうさぎんとこ泊まるゆうて朝出ていきおったし、
お父はんは確か論文の発表とかで大学に泊まり込むゆうてた気が・・・」
ケロがしどろもどろに答えた。
そう、夜とかいつまでという心配はしていなかったので、
知世に言われてハッと気がついたのである。
「わわわ、わい、ホワイトボード見てくるわ!」
何故かあわててケロは一階の木之本家では定番の
個人の予定の書いてあるボードを見に行った。
そっと、知世がさくらに近づく。
「さくらちゃん・・・」
「大道寺、部活は?」
「そんなもの、お休みしてきましたわ。さくらちゃんの一大事ですもの」
「あ、あはは・・・」
表情ひとつ変えずにいう知世は昔から変わっていない。
何かあれば全力でさくらをサポートしてきた。
魔力はないけれど、知世の存在がさくらにとってどれほど安心できるものか・・・
さくらはあまり気がついていない。
「兄ちゃんもお父はんも今日の夜はいないみたいやでー」
ケロがぱたぱたと嬉しそうに戻ってきた。安心したのだろう。
「今日一日で意識が戻ればいいが・・・」
「ええ・・・」
「大丈夫やろ。さくらには無敵の呪文がある」
「絶対・・・大丈夫だよ・・・」
知世がつぶやいた。この言葉で、いったいいくつの困難を乗り越えてきただろう・・・。
小狼に気持ちを伝えるときも、さくらはこの言葉を唱えていた。
そのことを思うと、大丈夫だ、という気持ちになるのだった。
さくらはどんな困難も乗り越えられる力を持っている。
夜7時半。
ずっとさくらの手を握って魔力を送り続けている小狼のかわりに
、知世が夕食の準備をしていた。
お料理上手な知世の料理はケロも太鼓判である。
コトン。小狼の前にサンドウィッチの盛ったお皿と飲み物が置かれた。
「李君の分ですわ。これなら片手でも食べられますし・・・」
「ありがとう。頂くよ」
「ええ。ケロちゃんの分はちゃんとご用意しまいたから、
下へ参りましょう。李君、さくらちゃんをよろしく願いしますね」
「ああ」
「飯や飯―っ」
ケロは上機嫌で知世より先にさくらの部屋を飛び出した。
気を使ってくれたのだろうか・・・。一瞬、そうも思ったが、そんな状況ではない。
運ばれたサンドウィッチを手の空いている右手で口に運ぶ。味に文句はつけようがない。
知世は料理・裁縫が得意なお嬢様。なんとも変わっている。
料理などメイドがやってくれるのに、なぜこんなに料理が出来るのだろうか・・・。
小狼には少し、謎だった。
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