シャオランとサクラに先に寝ててと告げて、さくらと小狼は部屋を出た。
靴を履いて裏庭へと出る。知世に案内されて何度も庭に足を運んだことがあるふたりは、迷うことなく道を進んでいった。
「なあに?お話って」
「あのふたりのこと」
「サクラ姫とシャオランのこと?」
「そう」
コツコツと庭を歩いていき、花畑の中央に建っている休憩所にたどりついた。
ところどころに建っている街灯がやわらかくオレンジ色の光を放っている。
照らされる花々は夜ゆえに眠っている。静かな夜。
「シャオランの対価のこと、聞いたか?」
「・・・うん。聞いたよ。・・・関係性だって」
「関係性?」
「そう。シャオランとサクラ姫って幼なじみでね・・・
でも、一緒に過ごした時間の記憶は、全ての記憶が戻ってもサクラ姫には戻ってこないんだって・・・」
「らしいな。サクラ姫が言ってた。
誰もいない空間に話しかけている記憶があると。その空間にはシャオランがいたんだろう」
「・・・つらいよね・・・。好きな人から自分の記憶だけが消えちゃうなんて・・・
好きな人のことを忘れちゃうのは・・・クロウさんだって“この世の災い”にするくらいのことなんだもん・・・つらいよ・・・」
「シャオランはサクラ姫が好きなのか?」
「そうだって言ってた。一番大切な人だって。だから守りたいって」
「・・・サクラ姫も、昔はシャオランが好きだったみたいだ・・・。記憶がない今となっては・・・わからないが・・・」
こつんっとさくらが小狼の方に頭を寄せた。
きゅっと小狼がさくらの肩を抱く。
「記憶がなくても・・・大丈夫かな・・・。また、同じ思いを持つことってできるのかな・・・」
「どうして?」
「別の世界のわたしたちだよ?・・・やっぱり・・・幸せになって欲しい・・・。
違う世界のわたしが・・・小狼君以外の人を好きになるって・・・なんだか嫌だもん・・・」
「それもそうだけどな・・・」
「運命ってものがあるのなら、きっと大丈夫だよね。わたしたちが運命なら、サクラ姫とシャオランも運命の人だよね」
「ああ・・・」
「わたしね・・・思ったの。もし、わたしがシャオランの立場だったら・・・同じ事が出来ただろうかって・・・」
「おれもそれ、思った。でも・・・好きな人の命と、自分の記憶と、どちらが大事かって思えば・・・
やっぱりおれもシャオランと同じ事をしたと思う」
「わたしも・・・。覚悟と誠意。これさえあれば・・・何かを成し遂げられる。
シャオランにはそれがちゃんとある。だから・・・きっと大丈夫・・・」
「ふたりが、上手くいけばいいな」
「うん・・・。ねぇ」
「ん?」
さくらが小狼を見上げた。
「わたし、小狼君のこと好きだよ。今でもずうっと、わたしの一番は小狼君だからね」
「・・・何?急に・・・」
「・・・何でもない。ただ・・・言っておかなくちゃわからない気持ちもあるから・・・。言えるときに言っておきたくなったの・・・」
「くすっ。おれだって・・・ずっと・・・さくらが一番だよ」
やさしい夜のヴェールに包まれて、ふたりは甘いキスを交わした。
夜空に願いを込めながら・・・。
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