そのころの隣の寝室。

「ったく!何であの姫の羽根が見つかったのに移動しねぇんだよ!白まんじゅうは!!」

ベッドの上であぐらをかきながら、黒鋼がガビガビしたように言った。

「まぁまぁ〜、いいじゃない〜。シャオラン君とサクラちゃん、 疲れてるだろうし、休む期間がちょこっとあってもいいでしょ〜。 黒ろんもお休み必要でしょ〜?」

ファイがキイっとベランダに続く扉を開けて言った。

「けっ!別に!!」
「何〜、それとも知世ちゃんと一緒にいたくないの〜?」
「なんでそうなるんだ!!」
「へっへ〜」
「ふんっ」
「この世界は平和みたいだし〜、休息にはもってこいじゃない。 なんだか阪神共和国に似てるよね〜」
「あそこよりは落ち着いてるだろ。巧断みてぇな不思議物体もねぇし。 ま、オレンジのぬいぐるみを除けばな」
「それってケロちゃんのこと?」
「けっ。阪神共和国の古語みたいなしゃべり方する食い意地の張ったぬいぐるみで十分だっ」
「あ〜、黒様ってばケロちゃんとモコナにお菓子奪われたから、ねたんでるんでしょ〜」
「んなんじゃねぇよ!!」

ふっとファイが夜空を見上げた。
夏の風はぬるく、ふんわりとファイの綺麗な髪をなびかせた。
こんなに落ち着いた国も本当に久しぶりだなぁなんてつぶやきながら。

「ったく、アイツもなんで小僧と姫とを同じ部屋にしたんだ?」
「それってサクラちゃんふたりとシャオラン君ふたりのことー?」
「ありえねーだろ、同じ魂のヤツが同じ部屋なんて!」
「んー・・・知世ちゃんなりの考えがあると思うけど?」
「そーは思えねぇ。知世姫と同じ魂ならなおさらだっ」
「そうかなぁ・・・。ねぇ、黒るん」
「ああ?」
「もしさ、他の世界で、自分と同じ魂を持った人に会ったらどんな気分なのかなぁ?」
「さぁな」
「普通想像もしてないよねぇ・・・他に世界があって、自分と同じ姿をして、 同じ魂を持った人が、自分とは全く違う生活をしてるなんてさぁ・・・。 それが突然目の前に現れたらちょーびっくりーってやつだよね。 オレ達は旅で慣れたからいいけどー、知らない人はたっくさんいるわけだし」
「ま、この世界の小僧と姫がそーゆーのに順応してるやつでよかったっつーことじゃねぇか」
「そうだね・・・。どうやら、あのふたりは幸せなようだし」
「あ?何が言いたい」
「だーかーらー、この世界の小狼君とさくらちゃんは恋人同士ってことー。 シャオラン君の大事な人はサクラちゃんでしょー?黒様ってば忘れてる? シャオラン君の対価」
「忘れちゃいねーよ」
「そんなふたりを見て、シャオラン君はつらくないかな・・・。 サクラちゃんは寝ちゃってるけど・・・不思議に思ったりはしないかな」
「それはあいつらの問題だろ。他の世界の自分が誰とくっついてよーが関係ねぇじゃねえか。 違う場合だってあるんだろ」
「でも、運命ってものがあるなら、オレは違うと思うんだよねぇ・・・。 次元の魔女も言ってたでしょ?“世の中に偶然はない”って」
「運命だろーが必然だろーが、それでも決めるのは自分だ。自分でしか自分の道は選べねぇ」
「・・・そうだね」

カタン。ファイがベランダに通じる扉を閉めた。

「さ、寝よ寝よ!せっかくこうして部屋も用意してもらったんだし!」
「まだ早ぇだろ!!」
「いいじゃーん」

ぼふっとファイがベッドにダイブした。
ふかふかのベッドがファイのことを受け止める。

「ったく、暑苦しいから窓くらい開けとけっつーの!」
「え〜、お邪魔になっちゃうしぃ〜」

ちらりとファイが隣の壁を見た。
そう、小狼たちがいる4人部屋だ。

「は?」
「それに、ここ、冷たい風が出る機械があって涼しいよー」
「ああん?」
「これこれ。すっごいよねぇ〜。便利だよねぇ〜」
「自然の風のほうが俺ぁ好きだけどな」
「またまたぁ〜。ってことで、おやすみぃ〜」

ばふっとファイが布団を翻してベッドに潜り込んだ。
「ほらほら、黒様も寝て寝て!明日はきっと若い子どもたち 5人に囲まれてお父さん大変だよぉ〜?」
「・・・・・・」
一瞬、黒鋼は小狼・シャオラン・さくら・サクラ・知世、 それに加えてモコナにケロというメンバーを頭に浮かべ、 それがいつも以上ににぎわっている図(特にケロとモコナ)を想像して、 ぞっとしてしぶしぶ布団にもぐりこんだ。