木之本家のさくらの部屋では、いつものごとく、ケロがテレビゲームで格闘していた。
「おう、おう!今や!そこや!よっしゃ!もうあと一歩!!」
ケロがガッツポーズを取った瞬間、コンコンと窓を叩く音が響き、
「ケロちゃん!開けて!」
とさくらの声がした。
「なんやなんや〜。わざわざ魔法使て帰ってこんでもええんやないかぁ〜?」
しぶしぶゲームを中断して、部屋の主であるさくらを入れるために鍵を開けた。
「ありがと!」
入って来るなりバタバタとクローゼットを開けた。
「なんや?着替えるために戻ってきたんか?」
「違うの!羽根!あの羽根なの!」
「羽根・・・?ああああ!あの羽根かいな!あれがどないしたん?」
「持ち主の子が来たの!だから渡してあげなくちゃ!」
「なんやて〜!!!??羽根の持ち主が来たんか?」
「うん!今知世ちゃん家にいるの!だから、これ取りに戻ってきたの」
ガタッとさくらはクローゼットから綺麗な細工の箱を取り出した。
箱は知世が用意してくれたもので、とても綺麗で頑丈だった。
『盾』でしっかりと封印されている。
「今から戻るんか?」
「もちろん!」
「わいも行くで!」
「ええ〜、ケロちゃんも行くの〜?」
「あったりまえやんか!その羽根の持ち主って子に会うてみたいし、知世ん家っちゅーたらお菓子あるんやろ?!」
「そうだけど・・・。ま、いっか。じゃ、行くよっ。あ、テレビちゃあんと消してよ」
「お、おう!」
ケロがバタバタとテレビゲームとテレビの電源を切った。
入ってきた窓から飛び立って、窓を閉めてから再び知世の家に向かった。
「しっかし、えらい急に来たんやなぁ」
「うん。異世界から来たんだって」
「は!?異世界!?」
「そう。びっくりだよね!でも、異世界があっても不思議じゃないもの。魔法があるんだから」
「せやけど・・・。ま・・・そうか・・・。
クロウも世界は一つじゃないって言うとったしな・・・。
しっかし異世界から来れるなんて驚きやで〜」
そして、再び知世自室のベランダに舞い降りた。
「おかえりなさい、さくらちゃん!あら、ケロちゃんもいらっしゃいましたのね!」
「おう!・・・・・・・・・しっかしおもろいメンバーやなぁ・・・」
ケロがぐるりとソファに座っている面々を見回して言った。
たしかにおもしろいメンバーだろう。ひょろっとしたファイ、
がっしりと大きなした黒鋼、真面目そうな少年にひとり女子がまじり、おまけにモコナがいればそれは倍増だ。
「なんや、そっちの嬢ちゃんらはさくらと小僧そっくりやなぁ」
「ケロちゃん、こちら、シャオランさん、サクラさん、ファイさん、黒鋼さん、モコナさんですわ」
「なんや、名前まで一緒なんかい。っちゅーことは異世界のさくらと小僧か」
「で?そのオレンジ色のぬいぐるみは一体なんなんだ?」
「わいは封印の獣ケルベロスや!」
「何を封印してるのー?」
「クロウカードっちゅうカードを封印しとったんや。
今はカードはさくらカードに変わって、わいの主もさくらになったけどな」
「けっ。そんな容姿で獣かよ」
「わいのほんまの姿はかっこええでー!なんなら見せたろかぁ?」
「ケロちゃん!!変身しちゃダメだからね!知世ちゃんのお部屋なんだから」
「さ、ささいな冗談やて」
ケロが苦笑いしながらテーブルの上の大きなお菓子皿の横に座り込んだ。
コトンとさくらがテーブルの真ん中に箱を置き、小狼の隣に座る。
ケロがさっそく、とばかりに目を輝かせて、ショコラクッキーをつかんだ。
「で、羽根の持ち主ってのはどいつなんや?」
「あ、わたしです。サクラです」
「ほう・・・。おもろいな。さくらがサクラの羽根を・・・か」
あーんと大きく口を開けて、ケロがクッキーを一口で頬張った。
モコナもぴょこんとテーブルに乗ると、お菓子をつまみはじめた。
おいしいものがあったら侑子に送ってあげよ〜とつぶやきながら。
「この箱に入ってるんですか?」
「はい。わたしがきちんと厳重に保管していましたから」
「厳重ってわりにはただの箱じゃねーか」
「でも、魔法がかかってるみたいだよ」
すっと手を伸ばしてファイが蓋を開けようとする。しかし、蓋はびくともしない。
「ね?確かめたいなら黒様、開けてみてよ」
「いー度胸じゃねえか」
黒鋼が腕まくりをして箱の蓋を開けようと、ぐいっと思い切り引っ張った。
それでも箱の蓋はびくともせず、かっちりと閉まったままだ。
「ねー?さくらちゃん、どうやらすごーく強い魔力の持ち主みたいだし、
この魔法も簡単には破れないよー。オレでも無理なんじゃないかな〜。
次元の魔女レベルになれば別だろうけど〜」
「この魔法は大切なものであればあるほど、強く発動するようになっていますから」
「それじゃ、さくらちゃんは羽根をとっても大切に思ってくれてるんだね」
にこっとファイが笑ってさくらに言った。
憎めない笑顔だ。
「必ず、持ち主に返すと決めていましたから。サクラ姫、お返ししますね」
そう言うと、さくらはすっと箱に手を伸ばして魔法を解いた。
ひらっと『盾』のカードがさくらの膝に乗り、さくらは易々と箱を開けた。
ぽうっと明るい光を発しながら羽根が浮く。
モコナがめきょっと両目を見開いた。
「間違いない!サクラの羽根だよ!」
すっとシャオランが立ち上がって羽根を受け取り、サクラの方へと促した。
「待って、シャオラ・・・」
サクラが言い終わらないうちに羽根はサクラの中に戻り、どさっとソファに倒れ込んだ。
シャオランが優しい瞳でサクラを見つめた。
「大丈夫です。眠っているだけですから」
「よかった・・・」
「けっ。今回はアッサリすぎてなんかつまらねーなぁ」
「平和に解決したんだからいいでしょー黒るん」
「あの、何かお礼を・・・」
「ううん!お礼なんていいの。わたしが勝手にやったことだもの」
「でも・・・」
「じゃあ・・・異世界の話を聞かせて欲しいな。たくさん色んな国を旅してきたんでしょう?その話、聞きたいな」
「・・・よろこんで」
シャオランとさくらがにっこりと笑いあう。 その様子を小狼は横目で見てむっとなっていた。
相手は自分と同じ姿形で名前も一緒の小狼だ。分身のような存在なのに、なぜかむかっとした。
「では、今夜はみなさん、我が家にお泊まり下さいな。部屋は余ってますし、
何不自由なくいられますし。しばらく滞在されてもいいですし」
「迷惑にならないかな?」
「全く問題ありませんわ。それに、みなさま、
どうやら大変苦労なさってこの世界に来られたようですし、2,3日休養の時があっても良いかと」
「んー・・・そうだねぇ。傷とか治した方がいいよねぇ〜」
「モコナもお休みしたい!」
「では・・・お世話になります」
「はい。李君とさくらちゃんもですわよ。もちろん、ケロちゃんも」
「えっ、わたしたちも?」
「お話、伺いたいですし。ね」
「・・・うん。ありがとう」
夕食やその後の時間は小狼とファイから主に話しを聞かせてもらった。
黒鋼は時々モコナとケロにつっこまれながら応対していた。
無限に広がる様々な国のこと。そこにいる、魂は同じだけれど違う人生を歩んでいる人たちのこと。
さくらが一番驚いたのは、もちろん、玖楼国で桃矢が王で雪兎が神官であることだった。
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