「自己紹介はさきほど庭でしましたが・・・呼び名に困る方がいらっしゃいますわね」

カチャリとティーカップを置いて知世が冷静ににこやかに言った。
ここには“さくら”が二人“小狼”が二人いるのだから。

「あ、好きに呼んで下さって構いません」
「わたしも・・・」

シャオランとサクラが言った。異世界を旅してきたおかげか、こうゆう状況も慣れているようだ。

「そちらの李君も李小狼というお名前なのですか?」
「え?李?」
「李?君?」

知世の“李君”という呼び方にシャオランとファイが首をかしげた。

「えと・・・名字はなくて、小狼だけです。サクラ姫も同様で・・・。」
「えっ」

シャオランの“サクラ姫”の言葉に知世・さくら・小狼が目を丸くした。

「サクラ“姫”!?」
「まぁ!そちらのサクラちゃんはお姫様なんですか!?」
「は、はい。玖楼国という国の姫で・・・」
「クロウ!?」

今度は“玖楼”という言葉にクロウ・リードを思い浮かべて思わず小狼とさくらが叫んだ。

「あ、はい・・・。えと、何か?」
「ううん、何でもないの・・・。そうだよね・・・他の世界なんだもん・・・お姫様だってあり得るよね・・・」
「俺の国ではおまえも姫だったぞ」

黒鋼が知世のことをじっと見て言った。

「まぁ、私が?」
「姫巫女だけどな・・・」
「異世界っていうのは本当に不思議だな・・・」
「うん・・・」

小狼とさくらが顔を見合わせた。
まさか、自分が“お姫様”な国があるなんて・・・と。

「では、サクラ姫とシャオランさん、でどうでしょう?」
「あ、あの、さん付けはしなくても・・・」
「じゃあ、サクラ姫とシャオランだね」
「ああ」
「さ!呼び方が決まって困ることもなくなりましたし、お話を伺いましょう」
「うん。あの、なぜ異世界の旅をしているんですか?それにどうやって?」

さくらが異世界4人と一匹組に問いかけた。
異世界を旅しなければならない理由。どうやって異世界を渡り歩くかの理由。
全てが謎だった。

「オレは元いた世界に戻らないために旅してるんだー」

ファイがへにゃっと力の抜けた言い方をした。
とても異世界を旅してまで元いた世界にいたくない理由があるとは思えない。

「俺は元いた国に戻るためだ」

ちらっと知世のことを見て、ふいっと視線をそらせて黒鋼が言った。
そう、この知世と魂の同じ姫巫女に無理矢理飛ばされたのだ。 この目の前のお嬢様な知世も油断はできない。

「おれは・・・取り戻したいものがあるんです」
「取り戻したいもの?」
「サクラ姫の記憶です」

真剣な目でシャオランが言った。
“サクラ姫の記憶”と一言に言われても、さくら・小狼・知世には抽象的でとらえにくい。
記憶を“取り戻す”ということは、奪われてしまったともとれる。

「あの、記憶を取り戻すってどうゆうこと?」
「はい。実は・・・」

小狼が玖楼国であった話をして聞かせた。
不思議な翼のようなもの。飛び散ったサクラの記憶の羽根。
それを集めるために次元の魔女と呼ばれる人の所に行き、今のメンバーと出会い、様々な旅をしてきたこと。
当のサクラは申し訳なさそうにシャオランのことを見つめていた。

「そっかぁ!次元の魔女さんのところに行ったのね!」
「さくらは侑子の事を知ってるの?」
「うん。知ってるよ。えーと・・・モコナさん?」
「モコナはモコナだよ。サクラはモコちゃんって呼んでくれるの」
「じゃあ、わたしもモコちゃんって呼ぶね。モコちゃんは侑子さんのところの子なんだ」
「うん!」
「次元の・・・魔女・・・」
「小狼君も知ってる?」
「いや、名前を聞いたことがあるくらいだ。まさかさくらが知ってるとは思わなかった」
「侑子有名人〜」
「ふふっ。エリオル君に教えてもらったの。とっても素敵な人なんだよ」
「けっ、あの魔女め・・・どこが素敵なんだか俺にはサッパリわかんねーな」
「えー、でも次元の魔女さんってすっごい人だし〜」
「質流しとか言うヤツだぞ!?」
「あ!そーだ!サクラ以外みんなお返ししてないよっ。侑子怒っちゃうよ〜」
「まぁ、楽しそうな方なんですね。次元の魔女さんって」
「ええ、それにとっても綺麗な方なんです。他の世界の知世ちゃんと 一緒に服を作ってお返ししたんですよ」
「まぁ、他の世界の私?ということは、すでに私は3人もいる計算ですわね」
「すごーい。他の世界の知世ちゃんにも会ってみたいねっ」

くすくすと笑いあう。
相変わらず黒鋼だけがむすっと座り込んでいる。
時々ちらりと知世のことをみている。その様子にファイが肘でつついてチャカを入れていた。

「あの、話を戻すんですけど、さっきのシャオランの言ってた記憶の羽根って・・・もしかして、ものすごい力を持ってる?」
「はい。とても大きな力です」
「このくらいの大きさで、不思議な模様が入ってる?」
「どうしてそれを・・・!」

さくらが身振り手振りで羽根を説明した。
その事を聞いて、シャオラン・ファイ・黒鋼は目を見開いた。
まさに、サクラの羽根そのものだったし、 それをサクラと同じ姿名前を持った少女が知っている事に驚いていた。

「やっぱり!あなたたちのことだったのね!」
「どういう・・・」
「わたし、その羽根、持ってるの。ちょっと前に見つけて・・・ いつかこの世界に、あの羽根を探して訪れる人たちのために保管してあるの!」
「あの羽根か・・・。まさか記憶の一部だなんて思わなかったな・・・」
「わ〜、サクラちゃんの羽根をさくらちゃんが持ってるなんておっどろき〜」
「待ってて!今取ってきます!」

すっくと立ち上がるとさくらはスタスタとベランダに向かって歩き出した。
みんなもそれに続く。
ごそごそと星の鍵を取り出した。

「星の力を秘めし鍵よ 真の姿を我の前に示せ 契約の元 さくらが命じる! 封印解除(レリーズ)!! 『(フライ)』!」

ばさっと薄桃色の翼がさくらの背中に現れた。その様子に異世界4人組は驚いた。
まさかこんなファンシーなカタチの魔法だなんて夢にも思わなかったのだろう。

「ひゅー♪ さくらちゃんの魔法はカードを使うんだねぇ。杖もかっわいー」
「あ、もしかしてファイさんも魔法が使えるんですか?」
「まぁ、そこそこー」
「えと、じゃあ、ちょっと待ってて下さいね!」

そう言うと、バサッと大空に舞った。