夏休みも半ば。
知世は美術の宿題のために庭の花壇をスケッチしていた。
「こんなところですわね」
色鉛筆画にしたらしく、100本近くの色鉛筆の入った箱が置かれていた。
そこに使っていた一本を戻して、手際よく片付けをすませた。
さて、部屋に戻ろうかと立ち上がったその時。
さあっと空が裂け、どすんっと何かが現れて着地した。
「新しい世界にー到着っ」
陽気で明るい声が飛ぶ。
空から現れたものの正体は一匹と4人の時空旅行者。
シャオラン・サクラ・ファイ・黒鋼・モコナだった。
「わー、次はどんなところかなぁ〜」
「姫、大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう」
「ったく、今度は花・・・はなばた・・・・・・」
黒鋼が目の前にいる女性に目を留めて言葉をうしなった。
当の知世は、あらまぁ、どうしたことでしょうと冷静に言いそうな落ち着きぶりだ。
それでも、しっかりと目は小狼とサクラに釘付けになっている。
まさかさくらちゃんと李君なわけはないですわよね・・・と。
「あー、知世ちゃんだ〜」
ファイが明るく言った。その言葉に知世が驚愕の瞳を向けた。
「なぜ、私の名前をご存じなのでしょうか」
「あ、これは失礼しましたー」
「それに・・・いえ、そんなこと・・・」
「オレはファイ・D・フローライトですー。こっちが小狼君で、こっちがサクラちゃん。こっちのデカイのが黒り」
「黒鋼だ」
「こっちのふわふわかわいいのがモコナ」
にこやかにメンバー紹介をするファイを見つめながら、知世は必死に考えていた。
突如現れた4人と一匹。サクラと小狼という名前に容姿。
魔法に触れてきた知世でも理解できなかった。
突然、さっきまで誰もいなかったところに、
季節外れな服を着た人が現れて自己紹介しているという現実に・・・。
「小狼、小狼、サクラの羽根の気配、するよ!」
「本当かい?モコナ」
「うん!近くにある!」
あっけに取られている知世の空気をぶちこわすような会話がされていた。
その会話の“羽根”という言葉に知世が反応した。
羽根・・・。そう、林間学校の時にさくらが持ち帰った羽根が気にとまったのだ。
「あの、この国に不思議な伝説とか言い伝えとか、そういうものはありませんか?」
小狼が真剣な瞳で問いかけてくるのをささっとかわして、
知世はくるりと後ろを向き、
色鉛筆の箱の隣に置いてあった携帯電話をとりあげて、プッシュボタンを押した。
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