「李君、さくらちゃんが言ってらした“嫌な気配”って・・・もしかして・・・」
「ああ、霊だろう。おれが気づくくらいだ。あいつが気がつかないはずがない」
「さくらちゃん、大丈夫でしょうか・・・」
「・・・まぁ・・・悪いものがいるわけじゃない。あいつも小学生じゃないし・・・」
知世と小狼は冷静に確実に道を歩んでいった。
一定間隔の時間をおかれてスタートしているので、まだ前の組にもおいついていない。
何の魔力の気配もしていないのが、さくらが無事だという証だと小狼は思って進んでいた。
あいつなら大丈夫だと、心に言い聞かせて。
「あれっ・・・わたし・・・何でこんなところにいるんだろう?」
はたと気がつくと、さくらは道なき道を歩いて森の中に入り込んでいた。
周りに人の気配はなく、道らしき道もない。
あたりには“嫌な気配”がうずまいて、さらに大きな力を感じていた。
明かりも持っていないさくらはきょろきょろとまわりを見回して、じんわりと涙を浮かべた。
「どうしよう、わたし・・・。泣いちゃダメ。とりあえず、明かりを・・・」
きゅっと目頭をぬぐうと、さくらは首からかけている星の鍵を取り出した。
「星の力を秘めし鍵よ 真の姿を我の前に示せ 契約の元 さくらが命じる 封印解除!」
しゅんっと鍵が杖になり、手中に収まる。
ごそごそと2枚のカードを取り出した。
「闇を照らすのは『光』
だけど・・・それじゃ、きっと全部明るくなっちゃう。『灯』なら大丈夫だよね」
そして、手元に『灯』のカードだけを残した。
すうっと軽く息を吸い込んで気を落ち着ける。
大丈夫、なんとかなる、絶対大丈夫と心につぶやいて。
「我に灯りを与えよ『灯』!」
ぽうっと緑かかった光がさくらのまわりに舞い降りた。
ふんわりと明るく、幻想的で、蛍の光を思わせる優しい光だ。
「!」
小狼が歩みを止めた。
「どうなさいましたか?」
知世が小狼の様子に気がつき声をかける。
「魔力の気配がする・・・。さくらが魔法を使ったな・・・!」
「さくらちゃんに何かあったのでしょうか!?」
「わからない。でも、確かにあいつの魔力だ」
ぐいっとろうそくを知世に渡して、小狼は札を取り出して火を付けた。
「おれはさくらのところに行く!大道寺はそのまま進んでくれ!きっと高橋がひとりのはずだ!」
「わかりましたわ!李君、お気をつけて」
「ああ」
ダッと小狼が駆けだし、あっという間に知世の視界から消えた。
魔法や魔力の知識がある知世がペアだったおかげもあって、言い訳の理由を考えなくても良いのが、今一番の救いだった。
さくらの魔力の強い方へと進んでいく。
道を外れて、だんだん森の奥深くに進んでいく。
さくらはひとりでこんなところに入りこんで何をしているのだろうか。
まさか誰かに連れ去られたのだろうか。さくら以外の魔力は感じられないから魔力を持つ者の仕業ではない。
さくらは無事でいるだろうか。
小狼は走りながらもんもんとそんな考えをめぐらせた。
最高の魔術師であるクロウ・リードを超える魔力を持つさくらは、事実上現在最高の魔力を持つ者だ。
しかし、さくらはただのかよわい女の子でもある。
小狼は決して魔力を持っているから安心できるとはカケラも思っていないのだった。
目の前に見覚えのある緑かかった光を小狼は見つけた。
「『灯』のカードかっ」
がさがさと音を立てて走っていく。
この音を怪しい音じゃないと思ってくれているのであればいいが・・・。
「さくらっ!」
ガサッと大きな音を立てて、小狼がさくらの前に飛び出した。
その衝撃に思わずさくらがびくりと身体を揺らした。
「しゃ、小狼君っ・・・」
瞳に涙をためている。
小狼の願いもむなしく、さくらは小狼が走ってくる時に立てていた足音と葉擦れの音にびくびくしていたのだった。
何かが近づいてくると。
「っはあっ・・・よかった・・・無事だな」
「び、びっくり・・・したよぅ・・・」
安心と驚きと恐怖で、さくらがぽろぽろと涙をこぼした。
息を整えながら小狼がさくらに近づく。
「大丈夫だ。何があったんだ?こんなところで・・・」
「わたし・・・よく覚えてないの。なにか強い力を感じて・・・それで・・・気がついたらここにひとりで・・・」
「強い力?」
「うん・・・。今も感じるよ」
「・・・・・・」
さくらの魔力を追うことに集中していた小狼は他の力に気がついていなかった。
さくらに言われて初めて、その力に気がついた。
何か、とても大きな力が・・・この先にある。
「小狼君はどうしてここがわかったの?」
「魔法を使っただろう。何かあったのかと思って、魔力をたどってきた」
「ありがと・・・」
「ほら、泣くなって」
そっと、小狼が自分の服の袖でさくらの涙をぬぐった。
ぶっきらぼうでも、こうして自分のために息を切らせて走ってきてくれる、
涙を拭いてくれる距離にいてくれる、それだけで嬉しかった。
「で、どうする。戻るか?」
「・・・ううん。わたし行く」
「どこに?」
「力の強いところに。わたし・・・呼ばれている気がするの」
「その力に?」
「そう。わたしのことを呼んでる・・・。だから、わたし、きっとここに来てしまったの」
「・・・わかった。よし、行こう」
小狼が剣を取り出して言った。
何かあったらすぐに対処できるようにと。さくらも杖を構えたままだ。
そして、ふたりで力の強い方へと歩み出した。
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