『Destiny』
 

「はーい、くじ引いてね〜。同じ番号の人とペアだからね〜。ちなみに、男女関係なし」

太陽も沈んで、ぬるい空気があたりを包んでいる6月下旬。 うっそうと茂る木々たちを前に友枝中学校2年生たちはいた。
林間学校二日目の夜。
キャンプファイヤーも終わったあとのお楽しみは肝試しだった。
恒例のくじ引きで各クラス二人組のペアを作って、ペアごとに出発するのた。
ぐるりと泊まっている宿を一周するようなコースになっていて、 中間地点にある目印であるモノを持ち帰ってくるというルートになっていた。

「さくらちゃん、何番でしたか?」
「4番だよ。知世ちゃんは?」
「残念ですわ、6番です」
「誰と一緒なのかなぁ〜」

くじ引きは不正ができないように引いたら名前をリストに書くという方式になっていた。
肝試しが最高に苦手なさくらにとって、ペアの相手は大変重要な問題だった。
もちろん、心の中で小狼ならいいのにと思っていることは明らかだ。

「さくら、大道寺」
「あら、李君。くじは引き終わりましたの?」
「ああ」
「何番?小狼君何番だった?」
「え、ああ、6番だった」
「まぁ!私と一緒ですわね」
「らしいな。リストに大道寺の名前があった」
「そっか・・・」
「さくらは高橋とだったぞ」
「高橋君・・・か・・・」

しょげた声でさくらが言った。
わたしって運がないなぁなんて思いながらさくらはぎゅっとこぶしを握った。

「心配するな。ただの肝試しだろう?それに、すぐあとでおれたちも出発だし」
「そうですわ、さくらちゃん」
「・・・でもでも、ここ、なんか嫌な気配がいっぱいするの」
「まぁ・・・」
「・・・・・・」

やはりさくらほどの力の持ち主なら気がついていたか・・・と小狼は小さくため息をついた。
さくらはここに来たときから“嫌な気配”にびくついていた。
魔力ではない、そう、さくらの苦手とする気配に。
小狼は気がついていたが、あえてさくらには何も言わずにいた。
内心、さくらが気がつかなければいいのにという思いも込めて。

「何かあったら立ち止まってろ。おれたちがすぐに追いつくから」
「うん・・・」

その言葉を聞きながら、 さくらはぎゅっと確かめるように胸元にある星の鍵とポケットに携帯しているカードを確かめた。
わたしはひとりじゃないと言い聞かせて。



「た、高橋君はこーゆーの平気なの・・・?」

ざくざくと暗い道をろうそく一本の明かりを頼りに進みながらさくらがペアの高橋に言った。

「いや、得意というわけではないけど・・・まぁ、怖くはないな」
「そ、そ、そっか」

さほど交流があるわけではないふたりは沈黙を破る話題を思いつかず、そのまま進んでいった。
中間地点にあったカードを取って、残り半分だと意気込んだその時。

「・・・・・・なにか・・・感じる・・・」

そうさくらがつぶやいて森の方を見つめた。

「木之本さん、行こう」

高橋はそれだけ言うと、先頭を切って歩き始めた。

「・・・わたしを・・・呼んでる・・・」


半分すぎたことに喜んでいた高橋が、さくらが後ろからついてきていないと気がついたのはしばらくしてからだった。