「はあ・・・」
湊と会ってはいけないと言われてから4週間とちょっと。
よく考えてみたら、こんなに会わないのは久しぶりだったわ・・・。
人間界では毎日一緒にいたし、海にいても三日に一度は会えてたわ。
なんだか、もっと、長く会っていないみたいに思えてきちゃうわね・・・。
だからかしら・・・ふとした瞬間に寂しいなんて思ってしまうのは・・・。
「8週間なんてすぐだと思ったのにな・・・」
約二ヶ月じゃない。
たった、それだけじゃない。
湊が隣にいないなんて、普通だったはずなのに・・・
「人間界で慣れてしまったのかしら」
毎日毎日、朝から夜まで、ずっと一緒にいた。
会えないのは数時間だけで、ずっと隣にいられた。
それが、あたりまえの日々が続いていたから・・・知らず知らずのうちに慣れていたのね・・・。
気分転換に散歩にでも行こうかな、と思った時、リリンと部屋のベルが軽やかに鳴った。
「はーい」
「歌音、今いい?」
「あら、珍しいですね、波音姉様。どうぞ」
波音姉様がひょこっと顔を出した。
波音姉様がわたしのところに来るなんて珍しいわ。
姉様は本当に用事があるときにしか訪ねてきてくれることなんてないの。
・・・ということは、何かあったのかしら?
「衣装係のチーフがお呼びよ。時間があるならドレスの直しをしましょうって」
「ドレスの直しを?」
「試着して雰囲気を見たいんですって。それで追加したりなんなりしたいって」
「わかりました。わざわざ姉様が呼びに来てくださったんですね」
「たまにはいいでしょ」
「ええ。行きましょう」
姉様に促されて部屋を出る。
波音姉様はひとつ年上の、一番歳が近い姉様なのに、こうして2人になる事ってあまりない。
昔からわたしは海音姉様にべったりだったというせいもあるけれど・・・。
思わず、じっと波音姉様を見てしまう。
「なに?あたし、何かおかしい?」
「い、いえ!その・・・波音姉様とふたりってあまりないなって」
「そういえばそうね・・・あたし達は末っ子組だったから、いつも姉様たちと一緒だったものね。とくに、歌音は海音姉様大好きだし?」
「う・・・そうですが・・・。もちろん、波音姉様のことも大好きですよっ」
「はいはい、付け足しありがと」
「もー!嘘じゃないのにっ」
「はいはい、わかってるから」
「ほんとにほんとよ?」
「かわいい妹の言うことですもの、当然信じましょう?」
「もーう、波音姉様はいっつもそうなんだからー」
「あははは」
波音姉様はいつもアッサリしてて、少しごまかしているような口ぶりをみせる。
基本的に動くことが好きで、サバサバしてて、まるで男の子みたいなんて言われることまである。
わたしとはタイプが違うというのもわかってる。
見た目もわたしがピンク系なのに対して、波音姉様は水色。
綺麗なストレートヘアーにシャープな尾ひれ。
人魚の世界では兄弟・姉妹でもそっくりという要素は少ないけれど、わたしと波音姉様はとくに正反対な部分が多い。
でもね、ほんとよ。
大好きなの。
波音姉様の少し低い声も落ち着いていて大好き。
「・・・そういえば、なんかため息ついてたけど、だいじょぶ?」
「・・・・・・部屋の外でもわかりました?」
「そういうわけでもないけど・・・朝とか、見かけたときにさ」
「う・・・大丈夫です。ちょっと・・・その・・・さみしいなって思っただけなんです」
「ははーん・・・」
ガッと波音姉様がわたしの腕をとって組んだ。
びっくりして思わずまじまじと姉様のいたずらっぽい瞳を見つめてしまう。
ニッと笑って姉様がわたしのことを小突いた。
「湊のことね?」
「は、はい・・・」
「ふふふ・・・ま、そっちも楽しみにしてなさいな」
「えっ、姉様、湊に会ったんですか!?」
「ええ。打ち合わせがあるんだもの。あたしたちは会うなって言われてないですから」
「ず、ずるーい!湊、なにか言ってました?」
「んー・・・とくにはなかったよ?」
「そうですか・・・」
「うそ。歌音によろしくってさ」
「事務的ですね」
「打ち合わせだもの♪」
ちょっと楽しげに話す波音姉様と連れだって、衣装部屋へと向かった。
そっか・・・みんなは会っているのね・・・。
わたしだけ・・・・・・。
仕方がないわ。
そういうことだって聞いていたもの。
もっと会えなかった時だってあるんだから、しっかりしなきゃ!
そう言い聞かせた。
2014.07.18.
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