「さて、歌音、湊。ここでひとつ、結婚式典前の大事な行事を伝えよう」
人間界の結婚式報告をするため、湊と一緒に父様と母様のお部屋を訪ね、
一通りの報告が終わった所で、父様が意味深な笑みを浮かべながらそう言った。
結婚前の大事な行事・・・?
「王族の掟みたいなものなんだけれどね、あなたたちにはまだ話していないのよ」
「母様・・・一体何なんですか?」
父様と母様がお互いの顔を見てにっこりと笑いあった。
姉妹の中では、わたしが最初の結婚。
つまり、その“掟”を目にしたことがないから、さっぱりわからない。
「8週間、会ってはダメ」
にこっと笑いながら母様が言った。
湊とわたしはぽかんとしながら、お互いを見た。
会っては・・・ダメ?
どういうこと?
「まあ、実際には“会えなくなる”が正しい。様々な準備のため、
ふたりは会えなくなる。それがいつのまにか定着して“掟”なんて呼ばれているだけなんだよ」
「はあ・・・」
「会えなくなる、ですか・・・」
「詳細は個々に伝えるよう手配しておく」
「わかりました」
「まあ、あなたたちはもともと遠距離だったんだし、8週間なんて大したことないわよね」
語尾にハートマークが付きそうな口調で母様が言った。
8週間・・・つまり、約二ヶ月。
結婚式まで二ヶ月ちょっとなのに、その半分以上お互いに会う事が出来ないの・・・?
それから、湊は別室で担当の人から詳細を伝えられるため、退室した。
わたしは直接、父様と母様から。
つまり、これは“王族でないもの”の準備期間だということなのだそう。
今までもそれなりの準備・教育はされているものの、限界がある。
そこで、王族に入る者は約8週間、みっちりと合宿同然で様々な事を学ぶそう。
礼儀作法、国のこと、王族の役割、最低限の教養と知識・・・。
それに、結婚式の準備も追加になるんだとか。
母様の時はそれはもう忙しかったらしい。
『何より、式直前まで会えないっていうのは、結構つらいわ』
なんて、頬を染めておっしゃった。
それは“恋しくて”なのか、“準備が進まない”からなのかはわからないけれど・・・。
2014.07.09.
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