〜幕間〜

広い広い座敷の部屋。
そこに並べられた机。
そして料理とお酒。

今日は同窓会の日だった。
仲の良い高校時代のクラスメイト達はたびたび集まって同窓会を開いている。
仕事で来れない人や海外に行っている人以外は、主婦だろうがアーティストだろうが、ほとんどが集まるのだった。

「あ、そうそう。あのね!」

パンパンと手を打って合図をしながら真珠が叫んだ。

「ひとつ報告!」
「何ー」
「報告?」
「うん。あのね、歌音が結婚するんだって!」

その一言に会場がしーんとなった。

「え?歌音ちゃん?」
「そう、歌音」
「マジで?」
「マジで」
「うっわ、びっくり報告じゃん!」
「結婚式とかすんのかな!?」
「そう、その結婚式のことなのよ」

真珠の隣に雫が立って言った。

「向こうではするらしいんだけど、ココでは予定がないんだって」
「えー、歌音ちゃんに久しぶりに会えると思ったのに」
「歌音のウエディングドレス姿なら見ておく価値ありそうだよな」
「全くだ」
「だからさ、わたしたちで計画しない?」

あくあがさらっと言い放つ。

「あたしたちで歌音の結婚式、企画しない?もし、 何とかなりそうなら、歌音の方も予定調節してくれるって言ってるからさっ」
「いいじゃん、それっ」
「同窓会を兼ねるって思えば、一石二鳥じゃね?」
「素敵素敵っ!賛成」

そんな声がざわざわと聞こえ始めた。
5年前に会ったきりの音信不通のクラスメイトに、 結婚式で会えるとなればやるしかないと誰もが思っているらしい。

「お祝儀とかなくしてさ、開催費用にしちゃえばいいんじゃないかなっ」
「ひとり1万か3万だとしても、結構集まるよねっ」
「あ、わたしウエディングドレスのスタイリストやってるから、安くドレス貸し出せるよ」
「外国から来るんでしょう?ホテルなら、私、確保できるわ」
「お、さっすが真理乃!ホテルグループオーナーの娘だもんなー」
「まあね」

「おお、ナカナカの傾向ね」
「みんな歌音に会いたいんだねー」
「うんうん」

仕掛け人の3人がくすっと笑い合った。
このクラスならば大丈夫だろうという確信あっての事だが。

「おい、真珠」
「ん?あ、透也、連斗」
「本当に歌音が結婚するの?」
「そうよ、連斗。本人から聞いたんだから」
「うひゃー・・・そういや、好きなやついるっつってたっけー」
「すごくカッコイイ人」
「会ったことあるのか!?」
「ええ。あるわよ」
「そっかー・・・結婚かー・・・」
「先を越されたわね、連斗」
「へ?」
「連斗と美菜穂が結婚しない方が、あたしは不思議ってことよ」
「それを言うなら真珠だってそうでしょ?」
「・・・・・・それもそうね。みんなして歌音に先を越されたってことね」
「よし!俺は歌音の結婚式企画賛成だぜ」
「おれも。喜んで参加するよ」
「私も私もっ」
「みんなもやるよなっ」

透也のその問いにあちこちで返事の声が上がった。

「よっしゃ!じゃ、言い出しっぺの3人と俺らで実行委員な!」
「あら、ありがとう」
「みんなですげー結婚式計画して歌音をあっと言わせようじゃん」
「わくわくしてきたぁ!」

そこから先の同窓会の内容が、 歌音の結婚式計画についての詳細打ち合わせになったことは言うまでもない。
式場は水沢グループ所有のものが使えるだろうということになり、 スタイリストをやっている由里がドレスを安く借りられるということになり、 式場に近いホテルなら真理乃のグループが招待してくれるということに。
生演奏は透也と連斗が担当、ジュエリー会社に勤めている 橋本が指輪やアクセサリーの相談にのるとのこと。
ご祝儀がない代わりに、ひとり1万円以上上限なしで料金を集めることになった。
料金は食事代になったりするため、惜しむ人はいない。 むしろ3万円出すと言う人が大半で、かなりの額が集まりそうだった。


「じゃあ、日程はココで大丈夫かな。 夏休みだから、海辺のチャペルですごい綺麗だと思うよ」
「へぇ、ココならすぐ近くにもうすぐ新しくホテルがオープンするの。 招待券用意できるわよ。もちろん、スイートで」
「じゃあ、ドレスの予約は最低でも二ヶ月前がいいなぁ。 その頃なら新作前だし、安くなるかも」
「透也と連斗はここ、空いてる?」
「ぜーんぜん余裕。てか無理してでも空けるから」
「選曲だけして待ってるよ」
「アクセサリーはちょっと前でも大丈夫だけど、 エンゲージリングだけはドレスと同じくらいがギリギリだな・・・」
「了解。じゃ、二ヶ月前に一度来れるように調整しなきゃいけないのね」

「ねえ、歌音ちゃんの許可とらなくていいの?」

美菜穂がさらっと核心をついた。
歌音にまだ許可を取っていない。
その父である王にも。

「だーいじょうぶだいじょうぶ。絶対説得して納得させてみせるんだからっ」
「・・・歌音ちゃんを?」
「んーん!そのお父様を!」
「・・・・・・厳しいんだ・・・?」
「そうでもないけどー・・・ちょおっとひとつだけ問題があって。 でも大丈夫だから。絶対に歌音を連れてくるから」

真珠がぐっと握り拳をつくって言った。
何が何でも、歌音の父である王を説得して、歌音と湊を連れてくると。
これだけ動き出した企画ならば、止められはしないだろうということも計算済みだった。