満月の夜。
久しぶりの再会の日。


ざばっと海面へと顔を出す。
その瞬間、冷たい空気が顔をなでてひやっとする。
季節は春と言えども、まだまだ空気が冷たい。

「久しぶりね、歌音」
「こんばんは」
「ちょっと遅刻よ?」
「真珠、雫、あくあ!・・・あれ?海輝は?」
「海輝は今日は予定が取れなくて。今京都にいるのよ」
「そっか・・・残念。でも、本当に久しぶりね」

いつもの待ち合わせ場所。
先に三人が待っていてくれた。
わたしたちが出会ってから、もう8年になる。
みんな、いつの間にか大人になるのね・・・。

「学生じゃなくなると、なかなか会えないものね」
「本当に。同窓会とか飲み会ならともかく、歌音は来れないもんねー」
「そうね・・・」
「また、いつか、みんなで会えると良いね」
「うん」

高校で一緒だったみんなとは、卒業してから会っていない。
ごく一部の人としか会えない。
それはわかっている。 仕方がないこと。
こうして真珠達に会えるだけでも、幸せ者だもの。


「あ、そうだ」
「ん?」
「あのね、ひとつ報告があって」
「なになに?」
「珍しー」
「えっと、結婚することになったの。今すぐにってわけじゃないんだけど」

わたしのその言葉に真珠達が一瞬息を止めたように思えた。
やっぱり、突然すぎたかしら・・・。
でもね、みんなに隠してはおけないわ。
こうして会える機会だって少ないんだから。

「・・・・・・マジ?」
「ええ」
「湊さん、と、だよね?」
「そうよ」
「うわー・・・びっくりー・・・。歌音が結婚・・・」
「おめでとっ」
「ありがとう」

くすっと微笑み合う。
もうこの年齢なら結婚はそんなに驚かれない。
だって、子どもがいる人も多いんだって!
それは海の世界でも同じ事だけれど・・・。

「ねね、王女様って結婚できるんだ?」
「もちろんよ。でなきゃ王家は途絶えるわ。 あ、でも、お嫁に行くことは出来ないけど」
「と、言うと?」
「湊が王家に来るってこと。そっちでいう婿養子みたいな・・・」
「そうなんだー。じゃあ、お姉様方も萌音ちゃんも愛音ちゃんもみーんな?」
「そうよ。よっぽどの事がない限りはね」
「よっぽどの事って?」
「まぁ、ケースバイケース・・・だけど」
「ふうん・・・。ね、ね、結婚式ってあるの?」
「あるわよ。でも、その前に婚約発表ね」
「いつ?」
「2ヶ月は先。湊の仕事が一段落するまでは ナイショにしようってことになっていて」
「式もするんだよね?」
「海の結婚式ってどんなんだろう〜」
「すっごい華やかなのかなっ」
「ふふっ。人間界の結婚式には劣るわ」
「え?」
「ほら、ウエディングドレスとか、そうゆうのがないから。 もちろん、衣装はあるんだけど、人間界のあのドレスには敵わないわ」
「そっかぁ・・・。歌音の結婚式、見たいなぁ」
「日程が合えば、ご招待するわ」
「ありがとう。でも、こっちでもやって欲しいよねー」
「歌音のウエディングドレス姿、見たい!」
「それは・・・ちょっと・・・無理なんじゃないかしら・・・」
「やっぱり・・・?」

人間界の結婚式。
それはとても華やかで綺麗で素敵なもの。
一度、海輝の結婚式に参加して、本当に素敵だなと思った。
美しいドレス、綺麗な教会、優雅な花が飾られていて、讃える音楽が鳴り響く。
そこはまるで、夢の世界みたいだった。
でも、お金がかかるってわかってる。
それに、湊を人間界に連れてくるのは至難の業だわ・・・。

「湊さんのこともあるしねー」
「じゃあさ、こっちで結婚式企画したら、来られないかなっ」
「企画!?」
「真珠・・・結婚式は同窓会やパーティーじゃないのよ」
「わかってるわよ。でも、 みんなで歌音たちの結婚式を企画して用意したら、 王様もいいよって言ってくれないかなっ」
「・・・母様はすぐにいいって言いそうだけれど・・・」
「琴音様、こういうの好きそうだもんね・・・」
「大好きね。むしろ写真を持ってこいって言うわよ」
「それだっ。記念写真お持ち帰りで、 これも人間界留学のひとつのイベントにしちゃえばいいんだよっ」
「でもさ、真珠。留学期間は2年で終わってるじゃない。ねえ、歌音」
「ええ・・・」
「むむむ・・・」

ぽりぽりと真珠が頭をかいた。
そんなに考えてくれるなんて・・・それだけでも嬉しいわ。

「でも、人間界の結婚式を体験する、 なんて一生に一度しかできないことだし、 歌音以外の誰かじゃ経験出来ないことでしょう? それを説明すれば、王様もわかってくださるんじゃないかな? 式場とかなら、うちの会社で協力できるし・・・ お金もそんなにかからないと思うよ」
「さすが水沢家・・・。説得力が・・・」
「ふふふ。だてにやってないわ、あくあ」
「よし、じゃあ、こっちで企画立ててみる。 それで、成立したら王様に話して説得しよう!あたしもお願いに行くからさっ」
「それがいいね!私もいくわ」
「協力できることならなんでも」
「雫・・・真珠・・・あくあ・・・。ありがとう。楽しみにしてるわ」
「まっかせといて!湊さんにも話しておいてね」
「ええ」

わたしの結婚式ひとつに、こんなに熱くなってくれるなんて、本当に嬉しい。
もし、人間界で結婚式が出来なくても、その気持ちだけでも嬉しい。
素敵な仲間でよかった。
本当に。

もしも、人間界で結婚式が出来たら・・・それこそ泣かずにはいられないわね、 きっと。