「歌音ちゃん、今度はこれ、着てくれないかなぁ?」
「え?」
「せっかくだから、女子は歌音ちゃんモデルでいいじゃないかって話になって」
「い、いつのまに・・・由里ちゃん」
「撮影の間に、だよ」
「着せ替え人形は慣れてるからいいけど・・・ わたしじゃ似合わないやつとか、あるんじゃないかな?」
「そーゆーのは他でやるからっ。ね?」
「わかった。いいよ」
「やった、ありがとっ。連斗くーん、コレ着てくれない?」
「はい?」

今度は由里ちゃんに連斗君が指名された。
由里ちゃんは被服部の部長さんもやってる、衣装係のリーダー。
ふんわりした感じなのに、こだわりだけは絶対に譲らないの。

「何でおれ?」
「お・う・じ・さ・ま、だから」
「は?王子?」
「そっ。いーから、つべこべ言わずに着てきなさいっ。 あ、透也君はそのままね。真理乃、アレ出しておいて」
「はいはい」

びしびしと仕切る由里ちゃんの笑顔に抵抗することが出来ずに、 連斗君が衣装を受け取って試着室へと消えていった。
さて、わたしも着替えなきゃ、ね。
次の衣装は俗に言うお姫様衣装だった。
つま先まである長いドレス。

「歌音って、ほんと、お姫様とか天使とかフリフリレースが似合うわよね」
「うんうん」
「羨ましいくらいだわー」

わたしの姿を見て真珠達が言った。
こんな実生活で着られない衣装が似合っても仕方がないと思うけど・・・。
それに、本物の天使はあんなフリルのついた服、着てないわ。
彼女たちはもっとシンプルな服を着ているもの。

「お、王子様も登場ね」
「これ、めちゃめちゃ恥ずかしいんだけど・・・」
「正統派の演劇部御用達王子様衣装よ。手直しはしたけどね」
「・・・・・・さっさと写真撮って終わりにしよう・・・」
「いいじゃない、連斗っ。似合うよ」
「美菜穂・・・からかってる?」
「まさか!本心本心♪」
「嘘だな・・・遊んでるだろ」
「くくくっ。連斗、よく似合うぜー。やっぱ連斗はおーじ様だよなっ。くくくっ」
「のわりには笑ってるけど、透也」
「はーい、そんな透也君にはこれどーぞ」
「おわっ」

バサッと真理乃さんが透也君の後ろからマントを被せた。

「なに!?何コレ!?」
「魔王のマント。これをこーしてっ」

カチンと前でしっかりとマントを固定した。
床まで届く長く黒いマントは、威厳があってちょっと怖い感じがする。
でも、それが透也君には似合ってたりして…。

「魔王!?悪魔よりレベルアップ!?」
「いいでしょ。さささ、まずは3人で撮りましょ」
「え?そういう組み合わせなの?」
「そうよ。おとぎ話みたいでいいでしょ」
「なるほど・・・」

ずいずいと撮影ブースに連れて行かれた。

「ふふふ。配役もバッチリね。お姫様と王子様、それに悪役の魔王」
「悪役かよ」
「魔王が正義の味方なわけないじゃない。ねえ、由里」
「ふふっ。そうよねーっ。お姫様をさらう魔王、 それを助ける王子様、最後はハッピーエンドってのがおとぎ話じゃない」
「なんつーベタな話だ・・・」
「いーからいーから、つべこべ言わずにやって!」
「はーい」
「くすくす。ふたりともよく似合うわ」
「歌音に言われたかないね」
「歌音姫には負けるよなぁ?」
「ありがと」

姫って言われるのには慣れてるわ。
もういちいち動揺したりしないんだから。
人間界に来て半年、慣れたわ、そのくらい。


そして、出来上がってる服をまさに“着せ替え人形”のごとく着て、撮影された。
写真は雫がパソコンに取り込んで加工して、 明日にはちゃんとメニューにしてくるんだそう。
わたしには似合わないような衣装(ピーターパンとかセクシーなものとか) は他の人が担当してくれた。
どうやら、みんなしてわたしを“お姫様”っぽく仕上げたいみたいね…。
生まれ育った環境のせいかしら・・・?



「ごめんね!当日になっちゃって。やっと接客衣装出来たんだっ。 サイズは大丈夫だと思うから、よろしくっ」

衣装担当の由里ちゃんがどさっと接客用衣装を広げた。
当日の朝、ホームルームも終わってからのことだった。
出来上がったのは、なんとメイドさんと執事さんのアレンジバージョン。
ひとつひとつちょっとだけど形が違う。
たった二日間の文化祭のために、こんなにするなんて・・・ きっとこの文化祭っていう二日間は特別なものなのね。

「はい、歌音ちゃんはコレ」
「え?」

気がつくと、由里ちゃんが接客担当にどんどん衣装を配っていた。
ずいと差し出された服を受け取る。

「場所がないから、更衣室ででも着替えてきて。ふふふっ、楽しみーっ」
「由里ちゃんの力作ね」
「そうよー。さ、早くっ。開始時刻になっちゃう!」
「はいっ」

由里ちゃんの作ってくれたメイド服・・・もとい接客服。
わたしのは、白を基調としたパステルな色でまとめられていた。
・・・やっぱりわたしにはこういう服をくれるのね・・・。
ひらひらのレースにフリル、可愛いんだけど・・・ちょっと恥ずかしい。
他の子は、黒を基調としたもの、アリスみたいな服、 執事ならば格好良く清楚なものから、着崩したものまであった。

「うふふー。よしよし。頑張った甲斐があった!」
「ねえ、なんでこんな衣装なの?」
「だって、ここは『夢の国の衣装部屋』じゃない。 夢の国らしさは、スタッフからそろえないとねっ」

「なるほど・・・」


こうして開催された文化祭で『夢の国の衣装部屋』は大好評。
手作り衣装なのが、やっぱりすごいって色んな人が来てくれた。
その場で即プリントアウトなのもよかったみたい。
文化祭って、いつも知ってる学校なのに、違うところに来たような気分になる。
各クラスが頑張ったお店がどれも面白くて、時には美味しい。
部活動の発表の場もあって、盛り上がってた。
水泳部を見に来たと言って、水希ちゃんも来てくれて。
たくさんの笑顔を見れた気がするの。
そう、歌会の後みたいに・・・。


由里ちゃんや真理乃さんたちの手作り衣装は、 のちのち演劇祭で使えることになって再利用したりもできた。