そして、4日後の朝、真珠達を迎えにいつもの場所へと行った。
「おはよう!真珠、あくあ、雫、海輝」
「おはよ、歌音」
「おはよう」
「おはよう、歌音」
「準備はOK?」
「ええ。荷物は海輝が預かってくれるって」
「海輝はどうしても無理なのよね」
「ええ。ごめんなさい、歌音」
「ううん。じゃあ、海輝にお土産を持ってくるわね」
「楽しみにしてる」
「さあ、みんな、海へ」
ざばっと真珠達が海へと入る。
すうっと変わるしっぽ。
「これを付けて。ブローチになってるから」
スッと父様からいただいた宝石を差し出す。
青く輝く宝石。
「これだけ?」
「ええ。これでわたしたちの世界が見えるようになるはずよ」
「まぁ、真珠のネックレスで人間になれるんだから、納得、かな」
「それもそうね」
ぱちんと宝石を胸当てにつけた。
「さぁ、行きましょう。わたしについてきてね」
「ええ」
「OK」
「行ってらっしゃい、みんな」
「行ってきます、海輝!」
ザンッ。
底へ底へと向かって泳いでいく。
時々振り返りながら、みんなの様子を見て。
城の先端が見えた!
「ねえ、見て!見えるかしら?」
すっと城の方を指さす。
「・・・お城?」
「そう!よかった!見えるのねっ」
「わ・・・ここがもう、人魚の世界なの?」
「そうよ。でも、街まではもう少し!あの場所はずいぶんと端なの」
「やだ、ドキドキしてきちゃった」
「でもわくわくする!」
「不思議な気持ち。歌音も人間界に来るときこんな気持ちだったのかしら・・・」
「ふふっ。知らない世界に行くって不思議な気分でしょう?」
すいっと泳いでいく。
そのうちに、段々と活気のある世界になる。
そして、わたしたちの家、
この世界で唯一の城がきらびやかに建っている場所にたどり着く。
「ふわぁ・・・おっきー・・・」
「ここがわたしの家よ」
「そっか・・・歌音ってお姫様だったよね・・・忘れてた・・・」
「ってことは歌音のお父さんって王様!?」
「そうよ。今更気がついたの?」
「た、大変な場所に来ちゃった気分・・・」
「ふふっ。まずは父様と母様に会って!二人にはちゃんと伝えてあるから」
「えええっっ」
「驚くことじゃないわ」
「だって、王様とお后様って事だよね」
「そうなるわね。でも、わたしの父様と母様なことには変わりないわ。
それに、ふたりとも、みんなに会えるのを楽しみにしてるの。特に母様が」
「う、うん・・・そうだよね・・・この世界に来たんだから・・・
ちゃんとご挨拶しなくちゃだよね・・・」
「ええ・・・お世話になるんだから・・・」
「お、王様レベルの人に会うのって初めてだよ・・・!」
「さ、行きましょう」
すいっと城内へと向かった。
わたしの父様と母様。
それは、この世界の王と后という存在でもある。
わたしだって、この世界では姫という存在。
でも、わたしはわたしだし、父様と母様だって肩書きを除けば普通の両親よ。
父様と母様にご挨拶をし終わって、みんながほっと胸をなで下ろした。
「あの、ごめんなさい」
「?」
「実は、このあと練習の予定が入ってて・・・
どーっしても一緒にいられないの。ごめんねっ」
「そうなんだー。それじゃあ仕方がないよね」
「あたし達のことは気にしないでよ」
「そうそう。歌会、楽しみだし、そのためには練習よね」
「・・・城内でも外でも好きに探検してきて。
お昼に戻ってきてくれれば、午後は一緒にいられるから」
「お昼って言われても・・・」
「はい、時計と・・・これを持っていて」
すっとこの世界の時計とひとつの紋章を差し出す。
「時計の見方は人間界と同じよ」
「ねえ、これはなに?バッジみたいだけど・・・」
「それは王家の紋章。これでお金を持ってなくても何でも買えるわ。
クレジットカードみたいなものなの」
「そんなっ!もらうわけにはいかないよっ」
「そうだよ、気にしないで」
「いいの。使って。みんながこの世界にいるのはたった一週間。
わたしが人間界にいた時間よりはるかに短いわ。
それに、向こうでさんざんお世話になったんだもの。ね」
「でも・・・歌音・・・」
「“お金がなくちゃ欲しいものも買えないし、
食べたいものも食べられない”そうわたしに言ってくれたのは真珠のお父様じゃない。
ね。父様がいいとおっしゃったんだから!それにみんなは大切なお客様だもの」
「・・・ありがとう」
「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
「ありがと、歌音」
みんながいそいそとわたしの手のひらから紋章と時計を取った。
そう。
わたしがいた2年間・・・お金だってかかったと思う。
何も知らない人魚ひとりおいてくれて、色々世話をしてくれて・・・とても感謝してる。
だから、今この世界で出来る限りのことを、みんなにしたいの。
「姉様!」
ふたつの声が同時に響いた。
わたしのことを姉と呼ぶのはたったのふたり。
「萌音、愛音。おはよう」
「おはようございます、姉様」
「おはようございます。歌音姉様、お客様ですか?」
萌音と愛音がすいっとわたしの元にやってきた。
末っ子のふたりも、もう14歳になった。
ふわふわの髪の萌音はかわいらしく、さらっとした髪の愛音は凛々しくなった。
でも、どちらも性格は変わってない。甘えん坊の末っ子たち。
「ええ。人間界からのお客様よ。話してあったでしょう?」
「あ!そうだったんですかっ」
「こんなに朝早くだったんですねっ」
「みんな、紹介するわ。わたしの妹の萌音と愛音」
「初めまして、みなさま。萌音です」
「初めまして、愛音です」
ぺこりとふたりが礼をする。
王宮の娘ですもの、当然のマナーは身につけているの。
「初めましてー、真珠よ」
「わたしはあくあ」
「雫よ。よろしくね」
みんなも自己紹介した。
さっき、父様のところでは名字も言ってしまって、
父様たちをさんざん混乱させてしまった。
この世界に名字はない。だから、
名前だけでいいのよ・・・って言い忘れてしまったんだけれど・・・。
「姉様、これから練習の時間ですよね」
「ええ、そうよ」
「お客様たちは?」
「ちょっと冒険に出てもらわないといけないわね」
「じゃあ!案内します!」
「あ、萌音もっ」
「・・・あら、いいの?」
「是非是非っ。人間界のこと、お聞きしたいですし、
案内があったほうが迷わずにすみますもの」
「・・・と言うんだけど、どう?真珠」
真珠とあくあと雫が顔を見合わせる。
そして、くすっと笑い合った。
「萌音ちゃんと愛音ちゃんがよければ是非」
「こんなにかわいい妹さんに案内してもらえるなんて嬉しいわ」
「歌音のお姉様ぶりも聞かなくちゃね」
「もーう・・・。じゃあ、萌音、愛音、みんなをよろしくね。お昼には戻ってきて」
「はーいっ」
「姉様、そろそろ行かないと遅れてしまいますよ?」
「そうね。じゃあ、みんな、また!」
「うん、ありがと!またあとで!」
「いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振って、練習場である小さなホールへと泳ぎだした。
萌音と愛音が案内してくれるなら安心ね。
迷う心配もないし、城の中もよく知っている。
好奇心旺盛のふたりに、みんなが疲れないといいけれど・・・。
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