『人魚の涙』番外編 「青い世界へようこそ」
「歌音」
「父様!」
歌会の練習中、父様が練習会場まで来て下さった。
今度、ソロで歌を歌うことになったため、わたしひとり練習中のこの場所に。
父様が自ら来て下さるなんて・・・。
「何かご用ですか?」
「ああ。ほら、歌音」
ぱっと父様が手を広げて4つの宝石をわたしに見せた。
・・・これが・・・何か・・・?
わたし、なにか約束をしてたかしら・・・?
「混血の人魚がこの世界に来る方法だよ」
「!み、見つかったのですか!?」
「ああ。この宝石を身につけていれば、きっと大丈夫だ。
もっとも証人がいないから、保証はないがね」
「あ、ありがとうございますっ・・・」
ずっとずっと、密かに探していた。
真珠達がこの世界に来られる方法を。
人間界を離れてから一年半もの間…。
父様も探していてくださったなんて・・・!
そっと宝石を受け取る。
青く澄んだ、大きめのブローチになっている。
「その者達を招くときは連絡すること。いいね」
「もちろんですわっ」
「くすっ」
軽くわたしの頭をなでて、父様はくるりと背を向けて行ってしまった。
父様・・・ありがとうございます・・・!
いつもの約束の満月の日。
ザバッ。海面へと出た。
「歌音!待ってたわー」
「今日はわたしたちの方が早かったわね」
「ええ」
人魚の姿で、海で迎えてくれた。
とても静かな海。
今日はいい天気ね。
「あのね、みんな。いいお知らせがあるの!」
「?」
「見つかったの!みんなが人魚の世界に来れる方法が!」
「!」
「ほ、本当に!?」
「うそっ・・・」
「本当よ!ただ・・・保証はないんだけど・・・
でも父様が見つけてくださったのだから、確かだと思うわ」
「嘘みたい・・・!」
「そんな方法があるなんて・・・」
「ねぇ、あたしたち混血の、人間界で暮らしてる人魚が行ってもいいの?」
「父様が良いとおっしゃったのだから大丈夫よ。
それに、母様もみんなに会いたいって言ってらしたし・・・。
みんなの都合が合う時にでも、是非来て」
「本当にいいの・・・?」
「人魚の世界に・・・行っても・・・」
「もちろん!」
王である、父様が見つけてくださった方法。
迎えてもよいという証。
招いてもよいということ。
わたしも、あなたたちにあの世界を見て欲しい。
わたしの大好きな海の世界を。
「ねえ、いつなら大丈夫かしら?」
「そうね・・・夏休み中じゃなきゃ無理よね・・・」
「今は夏休み中なんじゃ・・・」
「来週いっぱいくらいなら大丈夫よ、わたし」
「来週・・・ならあたしもヘーキ」
「じゃあ、私も明けておくわ」
「ごめんなさい、私は無理だわ。でも、みんなは楽しんできてね」
「海輝・・・」
「真珠達のお土産話を楽しみにしてるわ。それに、私って力の弱い人魚だから・・・」
「・・・うん。わかった」
「残念だわ」
「じゃ、来週で大丈夫?歌音」
「来週・・・そんなに早くていいの?」
「と言うより、もう2週間すると夏休みが終わっちゃうのよ」
「いくら長い大学の夏休みでも終わりはあるものね」
「そ、そうよね・・・。じゃあ、出発は・・・」
「んー・・・4日後、でどう?」
「賛成」
「OK」
「わかったわ。こっちの準備もしておくわね。朝でも大丈夫かしら?」
「ええ。夜にお訪ねするのは申し訳ないしね」
「王家だしね〜」
「じゃあ、4日後の夜明け後ね」
「わー、ドキドキしちゃう!」
「人魚の世界に行けるなんて・・・!」
「そ、その前に寝坊しそうで怖いわ・・・」
「くすくす。真珠ったら。でも、わたしも楽しみ!」
4日後。
そんなに早く実現するなんて思わなかった。
確かに、普段大学に通っている真珠達には長期休み中でないと無理よね…。
海の世界でも準備をしなくっちゃ!
それに、その日程なら歌会も聴いてもらえるわ。
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