次の月曜日。
月曜日なのに今日が終業式。
だから朝練もなく、真珠と一緒に登校した。
教室の扉を開けると、何か空気が違っていた。
「あ!歌音!」
「おはよう、つばきちゃん。えっと・・・何か?」
視線が一斉にわたしに向いていた。
わたし・・・何かしたかなぁ・・・?
「歌音、何かしたの?」
「な、何も・・・」
「ねえねえ、歌音と連斗がつきあってるってウワサ本当!?」
わっとみんなに囲まれてそう聞かれた。
え?え?なに?
わたしと連斗君がつきあってるっていう“ウワサ”?
・・・・・・ウワサってなんだっけ・・・。
「真珠真珠、ウワサってなんだっけ?」
「え?意味のこと?確かじゃないけど広まってる話・・・みたいな・・・」
「えーと、つまり・・・」
「歌音と連斗がつきあっているっていう話が出回ってるって事よ」
「なっ・・・!」
一体どこをどうしたらそんな話になるの!?
に、人間界って不思議・・・。
「ね、本当?」
「違いますっ。どこからそんな話が・・・」
「えー、でもふたり仲良いしー」
「昨日もふたり一緒にいるの音楽室で見かけたよ」
「あ、あたし歌聴いちゃった。『アヴェ・マリア』!すっごく素敵だったー」
「美男美少女でお似合いだよねーっ」
「ち、違いますから!本当に!」
昨日は偶然ふたりだっただけだし、一曲歌ってって言われたから歌っただけで・・・。
そりゃ、連斗君は素敵な人だと思う。
優しいし、礼儀正しいし、綺麗な人だし。
人気があるの、わかる。 でも、これとそれとは話が別よね。
「お、ウワサの人物登場」
「おはよう・・・って何でみんなで歌音を取り囲んでるの?」
「連斗君っ」
「おはよ、歌音」
連斗君がわたしの元までやってきた。
「ねえ連斗。こんなウワサ知ってる?」
「なんのウワサ?真珠」
「歌音と連斗がつきあってるんじゃないかっていうウワサだって」
「・・・・・・初耳。透也知ってた?」
自分の席に着いている透也君に連斗君が話を振った。
と、透也君・・・なんか不機嫌・・・?
机にほおづえついて、ちらりと連斗君のことを見た。
「いんや。今日来て初めて知った」
「で、真相は?」
「残念ながら、つきあってないよ」
「じゃあデマカセかー。ふたりお似合いだと思ったんだけどー」
「実は歌音が好き、とかじゃない?」
「それもハズレ。おれ、別に好きな子いるから」
その発言に一瞬、クラス中がしんとなった。
透也君だけがふうっと軽くため息をついて。
「え・・・誰?」
「んー・・・今アメリカにいるから」
「もしかして語学留学してる美菜穂のこと・・・?」
「えっ。荒川!?」
「そう。っということで、ちょっと歌音借りるね」
「えっ」
そう笑顔で言うと、わたしの腕をぐいぐいとひっぱっていった。
「ちょ、連斗君?」
「・・・・・・」
連れ出された場所は音楽室。
なじみの深い場所。
「・・・連斗君?」
「ごめんね、なんかウワサとかって・・・迷惑だったでしょ」
「ううん・・・大丈夫。でも、連斗君・・・その・・・」
「美菜穂のこと?」
「うん・・・ごめんなさい。あんな風に言わせちゃって・・・。大切な事なのに・・・」
「いいんだって。おれが言ったんだし。
それに、結構バレてる情報だし、美菜穂が帰ってきたら言うつもりだったから」
「・・・・・・」
「美菜穂…荒川美菜穂っていうんだけどさ、幼なじみで、
そんな風には思ってなかったんだけど・・・
去年語学留学で一年アメリカに行くことになって・・・
それを聞いてやっと気づいたんだ。自分が美菜穂のこと好きだって。
だから帰ってきたら言おうって思ってたから。気にしないでよ」
「・・・・・・でも・・・」
「離れてから気づく事って、すごいたくさんあるんだよね・・・。
歌音もそう思ったことない?」
「え、わたし・・・?よく・・・わからないわ・・・」
確かに…わたしは遠く離れて今ここに来ているけど・・・。
「そんな顔しないでよ。あ、もしかしておれのこと好きだった?」
「ちがっ・・・えっと、お友達としては好きよ・・・?」
「わかってるって。ほんと、歌音っておもしろいなぁ。
おれも歌音のこと、好きだけど・・・友達としてだし。
ま、歌音と美菜穂ってちょっと似てるからな・・・それもあったのかも」
「・・・そうなんだ・・・。わたしも、美菜穂さんに会ってみたいな」
「9月には戻ってくるから会えるよ。その時は紹介する」
「ありがとう」
自信を持って誰かを好きだって言える連斗君は本当に素敵だった。
“離れてから気づく事って、すごいたくさんあるんだよね”
その言葉が心に響いた。
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