試験前2週間前になって、部活動も活動中止になった。
潔く勉強しろっていうこの期間がなんとも不思議。
中間試験の時はどんなものがどう出題されるかもわからなくて、 さんざんみんなに聞いて回ったけど、今回は大丈夫そう。
記憶力は良い方だから、ほとんど勉強というモノをしなくて良いのが、 なんだか後ろめたい。
でも、数学と化学は別。数字に弱いから数学なんて ・・・悲惨な点数は取らないけれど・・・得意じゃない。
食堂で勉強するというみんなにくっついて私も食堂に行くけれど、 世界史のノートをながめたり、英語の教科書をながめたり・・・ みんなみたいにカリカリと書かない私はサボってる気分になったりする。



「連斗君」
「ん?歌音」
「あの、数学、教えてもらってもいいかな?」
「いいよ。座って」

カタンと連斗君の隣に座る。
目の前には透也君が座っている。
連斗君と透也君のいるテーブルに助け船を求めにいった。
あんなに一生懸命な真珠や雫たちにさらに負担をかけるわけにはいかないものね。

「迷惑じゃない?」
「全然。人に教えるって自分の理解にも繋がるんだ」
「へぇ・・・」
「そう。だから俺は数学のお礼に英語を教えてるわけ。 あ、でも、歌音には敵わないかなー。帰国子女だもんな」
「そんなことないわ」
「さて、どこ?」
「あ、えと・・・」

ぱらりぱらりと教科書と問題集をめくっていく。
連斗君の教え方は本当にわかりやすくて、 計算が苦手なわたしもさらっと解くことが出来た。
決して押しつけない教え方。わたしが問題を解けるのを待っていてくれる。
そして、助言だけはしっかりとしてくれる。

「ちょっと、水城さん!」

突然声が降ってきて、ぱっと声のする方向を見上げた。

「・・・片岡さん」

そこに立っていたのは片岡真理乃(かたおかまりの)さんだった。
ふわふわのウェーブのかかった髪、髪を結んでいる大きな赤いリボン、 きりっとした瞳が特徴的な女の子。あまり、話したことはないけれど・・・。

「えと、何かご用?」
「〜〜〜〜〜・・・こんなことあなたに頼むのはしゃくなんだけどっ」
「え?」

バサッ。
英語の教科書とノートがわたしの目の前に置かれた。

「お、教えて欲しいところがあるのよっ」

ぷいっとそっぽを向いて片岡さんが言った。
照れてる・・・のかしら・・・?

「あなた外国に長くいたらしいし、英語出来るみたいだし、 そりゃ、私だってそこそこは出来るけどっ!」
「あはは!かわいくねーなぁ。素直に歌音に教えてって頼めばいいのに」
「なっ!透也君ッ」
「真理乃はそーゆーとこ、ちーっとも変わんないかんなー」
「い、い、いいじゃないっ。放っておいてくださる?」

交互に透也君と片岡さんの顔を見つめる。
英語なら透也君でもいいんじゃないのかなぁ・・・?

「あの、片岡さん。わたしはいいんだけど・・・今数学教えてもらってて ・・・時間取らせちゃうよ?」
「か、構いませんわっ」
「でも、その、英語なら透也君でも大丈夫なんじゃないかな?」
「え!?」
「真理乃が俺に頼むわけないって。俺じゃダメだから歌音のとこに来たんだろ?」
「あ、そっか・・・ごめんなさい。透也君も自分のお勉強あるものね」
「どれくらいお時間かかりまして?」
「さ、さぁ・・・もうちょっとで終わると思うけど・・・」
「歌音、先に真理乃の見てやってよ。おれは大丈夫だから」
「え、でも、連斗君…」
「いいって。真理乃は待つのが苦手だしね。ささ、歌音をお貸ししますよ」
「そ、そう。ありがとう。じゃ、お隣失礼するわね」
「ええ」

片岡さんがわたしの隣に座った。
うーん・・・あまり聞かない口調ね・・・。えーと・・・そう、お嬢様口調だったかしら・・・?
そして、約20分の間、片岡さんに英語を教えた。
文法や訳など。英語は人間界留学の審査時の条件だから・・・出来て良かったわ。


「ありがとう、水城さん。助かったわ」
「いいえ。ねぇ、よかったら歌音って呼んで」
「・・・どうして」
「だって、真珠もいるんだもの。紛らわしくない?」
「真珠は真珠で慣れてるから平気よ。水城の方が新鮮だわ」
「いーじゃんいーじゃん。こうしてオトモダチになれたんだしー?名前で呼ぼうぜー」
「透也君・・・」
「まぁ、確かに。うちって持ち上がりで来てる人多いからほとんど名前だもんなー。 現におれたちも真理乃って呼ぶし」
「〜〜〜〜〜わかったわ。じゃあ、歌音さん、私のことも名前にしてくださる? 名字で呼ばれるとくすぐったいんですの」
「くすっ。わかったわ、真理乃さん」

バサバサと教科書類をまとめると真理乃さんが席を立った。

「では、ごきげんよう」

そう言って、スタスタと歩いていってしまった。
うーん・・・悪い人じゃないと思うんだけれど・・・なぜあんなしゃべり方をするのかしら・・・。
それに、綺麗な人だと思うけれど・・・。

「さ、一段落したなら、続きしようか」
「あ、ええ。お願いします」
「それにしても、やっぱりネイティブは違うよね」
「え?何が?」
「英語の発音。そう思わない?透也」
「まあな。下手に先生にしゃべらすよりはいいかも」
「・・・ありがとうっ」

そして、また数学へと向かった。