『夏休みと宿題とさくら』



ミーンミンミン・・・。
蝉が合唱して、じりじりと太陽がアスファルトを焼く季節。
多くの学生は『夏休み』という名の楽しくてツライ期間に入る。


ピピピピピピピピ・・・。

「うーん・・・」
ぱたぱたと、鳴り止まない目覚まし時計を手が探す。
ピピピピピピ・・・。

「と、時計・・・」
「さーくら!」

ピッ。アラームが鳴り止む。

「んん〜〜〜」

もぞもぞと布団が動く。

「さくら!昨日自分で目覚まし時計セットしとったやないかぁ」
「あと5分だけぇ」
「せやかて、さくらの5分は信用できん。はよ起き」
「はうー・・・」
「知世と小僧と宿題するんちゃうか?」
「・・・そうだった!」

バサッと布団を翻してさくらが飛び起きた。

バタバタ、パジャマを脱ぎ捨てて服を着替える。

「お約束やなぁ〜」

ケロが抱えていた目覚まし時計を定位置に戻した。
時刻は8時半。ふたりとの約束は10時だ。

「しっかし、あのさくらが宿題をこないに早う片づけようと思うなんて、 雨でも降るんちゃうか?」
「なによー。いいでしょー。わたしだってもう中学生だもん」
「去年までは8月31日に大慌てでドタバタやっとったやないか」
「だから、それをしないようにするためにやるの!」

しゃっしゃっと髪をブラシでとかしながら言う。
どうしても取れない寝癖と格闘しているのだった。

「で、なんで知世と小僧と一緒やねん」
「だって、みんなでやったほうが楽しいでしょ?」

とうとう、寝癖に負けてドライヤーでブローし始めた。

「・・・さくらひとりじゃできないんとちゃうんか?」
「な!わたしそんなにお勉強できなくないよ!」
「そうじゃなくって。さくらひとりじゃ集中できんのやろ?」
「・・・あはは〜」

やっと直った寝癖に満足して、さくらはドライヤーのスイッチを切った。

「・・・しかし、小僧とおったら、もっと集中できへんのとちゃうか?」

さくっとケロが痛い点をついた。
確かに、さくらが知世と小狼と宿題をする理由にはひとり では集中できなくて飽きてしまう、 というのが大部分だった。
あとは、わからない部分を教えあえるのも利点だし、 その"勉強する"雰囲気が大事だからでもある。
そして、夏休みなのにも関わらず、小狼や知世に会える理由がある、 というものさくらには嬉しいのだった。
小狼に会えるのならば宿題があるのもいいかな、 なんて思っていたほどだ。
けれど、ケロが指摘したように、 さくらが小狼とふたりきりで集中できるはずもない。
だからこそ、知世もさそってあるのだ。
当初知世は"さくらちゃんと李君、 おふたりのほうがよろしいのでは?"とさくらに告げていたが、
それを真っ向から否定したのはさくら自身である。 さくらもよくわかっているのだった。

「・・・さくら?」
「だ、だいじょーぶだよ!知世ちゃんもいるし!ねっねっ」
「・・・ま、ええか。しっかり勉強してきーや」
「う、うん」


****************


トントンっと靴を履く。

「ケロちゃん、お菓子もアイスもあるけど、食べ過ぎちゃダメだからね」
「わかってるってー」
「全部食べちゃうと明日からの分、ないからねっ」
「そ、そんな〜」
「じゃ、いってきます!」
「ほーい」

ガチャッと元気良く玄関をさくらが出ていった。
冷凍庫には夏には欠かせない冷たいアイスがたくさん、 そしてお菓子もたくさん用意してあった。
ケロを留守番させるにはこのくらいないとダメなのだ。
ケロはゲームをしつつ、テレビをしつつ、それらを頬張って一日留守番するのだった。