「・・・・・・」
「・・・・・・」

話す話題もなく、時計の秒針だけが妙にうるさく響いていた。
ケロがいないとこんなにも部屋は静かなのか・・・とふたりとも痛感していた。
こんなときこそ、ケロにいて欲しかった。

「あ、あの、しゃ、小狼君」
「ん?何だ?」

平静を装って小狼が返事をする。

「あのねっ・・・その・・・」
「何だ?何か欲しいものでも・・・?っておれじゃなにもできないけど」
「そうじゃなくってっ」
「え?」

小狼が、しどろもどろになっているさくらの顔を見つめた。
こんな時のさくらは、一段と可愛く見える。
着替えもできないため体育着なのが少し可愛そうだが・・・仕方がない。

「えっと・・・ね」
「?」

ちゅっ。

一瞬のスキをついて、さくらが小狼の頬にキスをこぼした。

「なっ・・・」
「ありがとうっ・・・」
「・・・・・・」

さくらのこの笑顔に、小狼は世界一弱い。
彼を負かしたければさくらを連れてくればいい、とでも言える。

「ったく・・・」
「えっえっ、怒ったのっ?」
「怒ってない」
「きゃっ」

今度は逆に、小狼がさくらの額にキスをこぼした。

「仕返しだ。さっさと寝ろ」
「・・・・・・んもーう!ひっどーい。それにっ、まだ10時にもなってないよっ」
「寝たほうが魔力が回復するだろ」
「そうだけどっ・・・せっかく小狼君とふたりなのに・・・寝ちゃうのもったいないもん・・・」
「バカ。おれの魔力がつきるまえに回復させろって。 おれはおまえと違ってそんなに強い魔力は持ってないからな」
「・・・ごめんなさい・・・」

しぶしぶ、さくらがそう言った。
たしかに、中学生にとって10時になってもいないこの時間帯はまだ寝るのには早い。
けれど、小狼が言っていることも事実だった。

「じゃあじゃあ、いっこお願い聞いてくれるっ?」
「聞いたら寝るか?」
「うんっ。聞いてくれたら寝るからっ・・・」
「・・・・・・わかった、言ってみろ」

軽くため息混じりに小狼が返事をする。

「あのね・・・」
「ん?」

「・・・キス・・・して?」

「なんっ・・・!」

さくらの超意外なひとことに、小狼は思わず後ずさりした。
普段、さくらがこんなことを言うなんてあり得ないことだった。
言った本人もかなり恥ずかしいようで、赤面している。
雰囲気に流されるならともかく、こうやって言葉にされると、 さくらも小狼もかなり照れるタイプのようだ。

「・・・仕方ないな・・・」
「えっ」
「ちゃんと寝ろよ?」
「・・・うんっ」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

やさしく、眠り姫にくちづけをするように、ふたりはくちづけを交わした。



**fin** 2005.02.