『 フォーチュン・バレンタイン・クッキー 』
チョコレートが美味しい季節。
冬季限定という誘惑の文字についつい負けそうな季節。
そして、ピンクにハートのモチーフが街を彩る季節。
St.バレンタインデー
「ねぇ、ねぇ知世ちゃん」
昼食を取り終えた昼休み。
友枝中学校敷地内は広く、裏庭の芝生でも、花壇周辺でも、噴水近くでも昼食を取ること許されていた。
条件は“汚さないこと”“遅刻しないこと”だった。
さくらと知世は花壇の側にあるベンチで昼食を取るのが晴れた日の決まり事だった。
冬の風が冷たくて、けれども日差しが暖かい。
そんな昼下がり。
知世が焼いたというクッキーをデザートにしながら、さくらが知世に意味ありげに呼びかけた。
微笑みながら知世がさくらの方を向く。
「・・・バレンタインって・・・チョコじゃなきゃダメなのかな?」
「李君にですか?」
「うん・・・。いいなあって思うお菓子見つけたんだけど・・・チョコじゃないの」
「どんなお菓子なんですか?」
「クッキー。中にね、占いが入ってるの」
「フォーチュン・クッキーですわね」
「中に占いじゃなくて、メッセージとか入れたら、良いなって思ったんだけど・・・バレンタインだし・・・」
さくらの頭の中にはバレンタイン=チョコレートという方程式が成り立ってしまっているらしい。
だからこそ、こうして、バレンタインにはチョコでないとダメなのかな、と知世に意見を聞いてきたのだ。
知世は賢くて美人で歌の上手い、さくらの自慢の親友。
「あら、それでしたら大丈夫ですわ」
「ほえ?」
「バレンタインデーはもともとはキリスト教の
聖ヴァレンティヌスの殉教記念日だったらしいですわ。
それに、日本でチョコレートを贈るという習慣はお菓子屋さんが広めたものですし」
「へぇ・・・!そういえば、エリオル君がイギリスでは
男性が女性にお花とかをプレゼントするって言ってたなぁ」
「一番甘くてスウィートなお菓子、ということもあって
チョコレートをバレンタイン時期に宣伝しはじめたので、
今でもチョコレートというイメージなのでは?デパート
などではクッキーやお酒みたいなのも売っていますし、
チョコレートでなければいけないという必要はありませんわ」
「そっか・・・そうだよね」
「ええ。気持ちが込められているものでしたら何でも良いと思いますわ」
最後に知世がぽそっと「李君の場合は特に」とつぶやいた。
「そっか!・・・ん?小狼君の場合・・・?」
「いえいえ、何でもありませんわ」
くすくすと知世が笑った。
知世の観察力でなくてもわかりそうなことだが、
さくらからしてみれば不思議なようだ。
小狼ならクッキーだろうがチョコレートだろうがケーキだろうが、
さくらが作ったものであれば喜んで受け取るであろうことを。
「さくらちゃんが一生懸命に作られたものであれば李君、
喜んで下さると思いますわ」
「・・・うんっ」
「それに、チョコレートクッキーになされば良いのでは?」
「そうだね!うん。じゃ、そうしよう!」
ぱっとさくらの顔が明るくなった。
ケロがいたら、“恋する乙女は大変やなぁ”とお決まりの言葉を言っていただろう。
知世はそんなさくらを優しい眼差しで見ていた。
「あ、でも・・・」
「何か問題でも?」
「作り方・・・良く知らないんだ。テレビで見ただけだから。調べなきゃね」
「それなら家に寄って行って下さい。
パティシエなら知っていると思いますから。
ついでに宿題、やってしまいませんか?」
「いいの?じゃあ、そうしようっ」
2月の女の子は忙しいものである。
チョコレートと心の準備で手一杯。
さくらが小狼に告白する、というわけではないけれど、
好きな人に贈り物をする日なのであれば、
好きと言う日なのであれば、これほど素敵な日はないとさくらは思っていた。
いくら恋人同士だって、いつでも"好き"と言葉にするわけではないのだから。
まして、小狼はポーカーフェイスのテレ屋さん。小
学生のときほどではないけれど・・・。
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