『人魚の涙〜夢の国の衣装部屋〜』


「あははっ、歌音かっわいー」
「もう、波音姉様っ。わざわざ言わないでいいですからっ」
「テレないテレない。しかし、脚のある妹を見るとは不思議な感じね」
「そうね。でもこうして見ることが出来るなんて思ってなかったから、嬉しいわ」
「この、写真、とやらに感謝ですね、海音姉様」
「そうね、紫音」

くすくすと笑い合う。
人間界から帰ってきて一ヶ月。
ようやく、ゆっくりと姉妹でアルバムを見る時間が出来た。
父様と母様はすでにご覧になっているけれど・・・。

「もう、姉様達だけずるいですーっ。萌音だって見たいのにっ」
「そうですよっ。あたしたちにも見せて下さいっ」

リリンと鈴を鳴らして萌音と愛音が入ってきた。
ここは海音姉様のお部屋。

「ごめんなさいね。別に仲間はずれにしたわけじゃないのよ?」
「それはわかっています。学校に行っていたんですもの」
「帰ってきたら姉様達みんないなくて、探しちゃったんですよ〜」
「ほら、愛音、萌音、おいで」

ぱたぱたと波音姉様が手招きをした。
ふたりが嬉しそうにわたしたちのもとに泳いできた。
そして、ずいっとアルバムをのぞき込む。

「わあっ、歌音姉様素敵っ」
「人間界って洋服っていうのがあるんですよねっ。可愛い〜」
「色んな服があると、色々組み合わせることが出来ておもしろいのよ」
「でも不思議な感じっ、姉様に脚があるなんて」
「姉様じゃないみたいっ」

ぱらっとページをめくる。
加工された特別なこのアルバムは、1ページが紙よりもずっとずっと重くて丈夫。
こうして海の中でも紙に印刷された写真を見ることが出来る。

「わあっ、このページは歌音ばっかりね」
「着ている服が随分変わっているけれど・・・」
「姉様可愛いーっ」
「ねえ、歌音。これは一体どんな時の写真なの?」
「どれですか?海音姉様」

わたしもアルバムをのぞき込む。
そこに映し出されている風景。
全てが懐かしく、つい最近で、でもとても遠く感じた。

「これは、文化祭の写真ですわ」
「ぶんかさい?」
「学校内での祭りです。クラスごとにお店をやったりする・・・」
「文化祭・・・」
「この時は、写真館みたいなのをやったんです。 衣装を着て写真を撮って・・・という。そのサンプルの写真ですわ」
「へぇ・・・なんかよくわからないけど、 こんなにたくさんの衣装があるなら面白そうね」
「ええ・・・」

高校2年生、わたしにとって最初の文化祭。
9月の終わりに開催された文化祭。
この時にクラスでやったものが『夢の国の衣装部屋』―――。