「真珠、一週間ありがとう」
「いいえー。歌音と過ごせて楽しかった。また来てね」
「ええ。是非」
「また海輝とのデュエット聴かせてね」
「ふふっ。楽しみにしてるわ」

あの岩場で、人魚の姿になる。
日が暮れた人気のない海。
すうっと水に身体を沈める。

「歌音」
「ん?」
「お客様が来たみたいよ」
「お客様?」

ついっと真珠が指を指す。

「透也君、連斗君、美菜穂さん・・・」
「この間場所聞かれたの。歌音が言ってたように教えておいたんだけど・・・」

来てくれたんだ…本当のわたしに会うために・・・。
わざわざ、車で来なければいけない場所なのに・・・。
ざばっともう一度岩場に上がる。
ぽたぽたと滴る水、ほのかな月明かりに浮かび上がるサーモンピンクのしっぽ。

「こんばんは」

近くまで来た三人に言った。

「歌音・・・ほんとだったんだ・・・」
「人魚って・・・本当にいるんだな・・・」
「歌音ちゃん可愛いーっ」
「ありがと、美菜穂さん。どう?これで信じてくれた?」
「あ、ああ・・・」
「世の中には知らないことが山ほどあるんだなぁ・・・」
「まるで人魚姫みたいね」
「んん?」

美菜穂さんのその一言に、真珠が反応した。

“人魚姫”

「あら、歌音。そのことは言ってないの?」
「・・・言っても仕方がないことだもの」
「人魚姫と歌音に何か関係があるの?真珠」
「歌音はお姫様よ」
「・・・・・・は?」
「人魚の世界のお姫様なのよ。 せっかくなんだからトコトン言ってしまえばよかったのに」
「だって、王女なんて身分、人間界じゃ関係ないもの。それにわたしは四番目よ」
「お、お姫様・・・?」
「姫が人間界に留学・・・?」
「人魚姫って言葉、間違ってはいないということね」
「へぇー・・・なるほどね。丁寧な口調だとは思ってたけど・・・」
「みんな、ありがとう。また会う日まで」
「歌音、またな」
「人魚姿、素敵よ、歌音ちゃん」
「元気でな。絶対また来いよ!」
「またね、歌音」
「ええ」

また身体を海へと沈めて、ざっと潜った。
ありがとう、みんな・・・。



「歌音!」
「湊っ」

海で待っていてくれた大好きな人の腕の中に飛び込む。

「ただいまっ」
「おかえり。・・・どした?」
「何が?」

湊の顔を見上げる。
わたし、何かおかしなことしたかしら?

「いや、珍しいから・・・歌音から・・・」
「いいじゃないっ。ねえ、ぎゅってして」
「ほんと、なにかあったわけ?」
「なーんにもない!嬉しいことがあっただけ!」
「それならいいけど」

ぎゅっと湊がわたしを抱きしめてくれた。
ふふっ。
やっぱりここが好き。大好き。
あなたの腕の中が一番幸せよ。
だから、何があってもわたしはこの青い世界に帰ってくるわ。
あなたのもとに、帰ってくるの・・・。


*Fin*




2007.08.22.