『人魚の涙〜4年後の約束〜』
“――4年後。俺たちが大学を卒業したら、また4人で会おう――”
あの約束をしてから4年・・・。
わたしたちは22歳になった。
夏休みには少しだけ真珠の家に遊びに行ったりしたけれど、
結局4年間3人には会わずじまい。
けれど、約束は覚えていてくれたみたいで、
真珠から伝言で受け取った待ち合わせの日時。
運命の日が来るのね・・・。
「久しぶりなんじゃない?歌音が人間界に行くのって」
「そうねー・・・真珠達には会ってたけど・・・それだけだったから」
久しぶりの湊との再会。
春の節目で、長い休みが取れたんだそう。
それなのに、今度は逆にわたしが人間界へ行ってしまう。
せっかく会えたのに・・・せっかくの長い休みなのに・・・。
少しブルーな気分。
楽しみなのに、今過ごせる大切な時を奪われてしまうから・・・。
「楽しんできなよ。約束があるんだろ?」
「うん・・・」
「俺のことは気にしないで。2週間は休みもらったんだから。
帰ってきてもまだ時間あるって」
「・・・ありがと、湊。じゃー浮気してこようかな」
「はあ!?何それ!あ、約束の相手って例の初恋の相手?」
「も、含む」
「ちぇっ。何だよー。じゃあ行かなくていい!」
そう言って、ぐいっと湊がわたしのことを引き寄せた。
「あ、やだ。冗談よ。浮気なんてしてこないって」
「信用できないなー。一生忘れないとか言ってたしー?」
「もう・・・。いいわ、じゃあ、半年くらい行ってこようかしら」
「あ、うそうそ。ごめんって。ちょっとからかっただけだって」
「くすっ。わかってるわ。戻ってくるから安心して。一週間だけだから」
「はいはい。帰ってきた後の一週間は俺が歌音のこと予約な」
「言われなくても、そのくらいわかってるわ」
明日から一週間、わたしは人間界に行く。
そう、あの約束を果たしに・・・。
「とーや・・・つったっけ?」
「ん?」
「そのお相手」
「え、ああ、透也君ね。そっか、真珠達がぽろっと言ってたわね」
「ふうーん・・・」
「もう、怒ったの?」
「そーゆーわけじゃないけど・・・」
「けど?」
「俺が知らない時間が2年もあったんだなーって、思っただけ」
「・・・そうね。長くて短い期間だったわ。
それに、わたしだって同じ期間だけ湊のことを知らないわ」
「お互い様か」
「そうよーっ。わたし帰ってきて驚いたんだから!」
「何に?」
「湊にっ。本気で一瞬誰だかわからなかったんだからっ」
「ま、それなりに努力しましたし?」
「そんなこと言って・・・」
努力って、何の努力よ?
「マジマジ。わかってないなー。
俺、歌音が帰ってくるって信じてたから待ってたんだぜ?
帰ってきたら言おうって決めてたって言ったろ?」
「・・・そのため?」
「そう。天下無敵の歌姫様につりあう男になりたかったしね」
「天下無敵って・・・。またちゃかしてっ」
「でも、まさか、歌音に先を越されるとは本気で思わなかった」
「くすっ」
「なぁ、ひとつ、聞いて良いか?」
「何?」
じっと湊がわたしを見た。
「歌音はさ、俺のどこを好きになったの?」
「え!?」
「だって、さ、帰ってきて、歌会までの期間って少なかったし、
会えたのなんて数回だったし・・・。前から不思議だったんだ」
「・・・・・・さぁ・・・どこってきかれると難しいわね」
だって、わたしと湊は幼なじみ。
2年間会っていない期間があると言っても、
昔からの知り合いであることに変わりはない。
良いところも、悪いところも、お互いわかってる。
だから、どこと聞かれても・・・。
「そうねー・・・本当にあのときはどこと聞かれても困るわ。だって、気づいたんだもの」
「何に?」
「湊が好きだって」
「・・・・・・」
質問の答えになってなかったかしら。
でも、それは事実。
気づいたんだもの。湊が好きなんだって。
たった、それだけのこと。
わたしが、少し、大人になって帰ってきただけということ。
「これならわかるかな。湊のこと、
前はそうゆう対象として見たことがなかったの。
だから、帰ってきて、わたしが変わったって言った方がいいのかな。
湊のこと、そうゆう視点で見てみて、嫌でも気づかされたっていうだけのこと」
「つまり、前は、俺って恋愛対象外だったわけ」
「全ての人魚がね」
「そっかー・・・なるほどね。ま、いいか。昔の話だし」
「そうよ。許して?」
「はいはい。所詮歌音には勝てません」
「くすくす。王女様だから?」
「歌音だから」
そう言って、湊はわたしの頭をくしゃくしゃとなでた。
ねえ、湊。
貴方はどうしてわたしを好きになったの?なんて聞いたらなんて言う?
“そんな大昔のこと覚えてない”なんて言うかしら。
期間なんて関係ないわ。
たとえ、貴方がわたしのことを好きな期間が、
わたしが貴方を好きな期間より長くても。
中身があれば、関係ないでしょう?
「お土産話、期待して待ってる」
「期待してもなにもないと思うわ」
くすっと笑いあった。
季節は春。
初めてわたしが人間界に行った季節。
そして、わたしがみんなにさよならを言った季節。
地上の桜は、どのくらい咲いてるのかしら・・・・・・。
「歌音っ」
「真珠!久しぶりっ」
いつもの岩場で真珠と待ち合わせた。
夜、月が半分欠けている。
満月の夜でない日に会うのは久しぶり。
こうして指輪とネックレスを着けるのも久しぶりね。
「えーっと、はい、服持ってきたわ」
「ありがとう」
真珠の持ってきてくれたワンピースを着て、しっぽを脚へと変える。
久しぶりの感覚。
「・・・ひとつ心配だったのは歩けるかどうかって事なのよね」
「あ、あはは・・・大丈夫、かな?」
人間の姿になるのは本当に久しぶり。
この間の夏は真珠達が忙しくて遊びに行けなかったから・・・。
「わ、とっと!なんとか、いけそうね」
ふらつきながら立ち上がった。
ひゃーっ。
「無理しないでよ?」
「大丈夫、よ。あー、でも、また靴に苦労しそうね」
「くすくす。服も買わなくちゃね。年相応な」
「お手数かけます」
「着せ替え人形みたいで楽しいからいいのよ。
さ、行きましょ。雫もあくあも家にいるの」
「わ!本当?」
「ええ。あたしはお迎え役。春樹は車の所よ。海輝だけ今日はいないんだけど・・・」
「みんなに会えるんだから嬉しいわ」
真珠の手を借りながら、春樹の待つ車まで歩いていった。
春樹に会うのもとても久しぶり。
そして、約束の日までの3日間。
また着せ替え人形のように服を選び、靴を履いての歩行訓練。
色んな話もして、水族館のみんなにも挨拶をした。
海輝にも会って、ふたりで一曲歌った。
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