『人魚の涙〜愛の証〜』
「ふう・・・」
部屋の窓から外を眺めて、小さくため息をついた。
人間界留学から帰ってきてもう5年。
わたし、歌音も23歳になった。
湊とつきあって5年になるということでもある。
けれど、湊は徐々に仕事が忙しくなって、
遠出することも増えて、今では3ヶ月に一回、
会えるか会えないかの状況になってしまった。
最初は一週間、一ヶ月・・・そして今は・・・・・・。
3ヶ月に一回ってことは、
一年に片手に数えるほどしか会える期間がないという事。
わかってる。
お仕事だもの。湊が好きでその仕事をしてるって知ってる。
わたしも、色々と忙しい。
定期的に王室で開かれる歌会に加えて、最近は遠征もしている。
父様に連れられて隣の海や遠くの海まで行くこともある。
そんな状況で・・・寂しさはつのるばかり。
姉様がいてくれる。
愛音も萌音も一緒にいてくれる。
でも、湊がいない・・・。
次に会う約束は一週間後。
かれこれ3ヶ月半ぶりになる。
ねぇ、湊。
あなたは寂しくない?
わたしに会えなくて・・・寂しくない?
寂しいのはわたしだけ・・・?
海には、人間界みたいな機械はない。
離れた場所で声が聴ける電話も、瞬時に相手に届くメールも、海の世界にはない。
この世界にあるのは手紙だけ。
こんな時、電話やメールが出来ればいいのにと、人間界を羨ましく思う。
何度も会いに行こうと思った。
父様に連れられて湊のいる場所の近くを通る度に、時間がないかと思った。
抜け出してしまおうかとも思った。
けれど、出来なかった・・・。
湊や、父様に、迷惑はかけたくなかったから・・・。
そんな、礼儀のないこと、したくなかった。
でも、同時に、とてもとても自分がいくじなしだと
・・・感じずにはいられなかった。
会いたいなら会いに行ける・・・そんな距離が欲しくなった。
所詮、わたしは箱に入ったお姫様・・・。
待っていることしか出来ない・・・。
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